一緒に死ねるなら ページ46
・
簡単な事で、
「小雪さんと縁を切るから捨てないで。」
って言えばいいだけの話。
だけどそれが言えないのは、俺の心の中にチラつく小雪さん、ってだけじゃなくて。
[ ずっと好きやねん。 ]
ラウールの失言の後、質問攻めに合う康二はポツリとそんな事を漏らした。
楽しそうに聴き始めた佐久間もその言葉にどこか痛ましそうになって、
「まあ最後に勝つのは一途なやつだからな！」
って。
全部を知ってる翔太だけが、何も言わずに美容雑誌をずっと眺めてた。
「…辰哉、くん。」
「…んー？」
行為が終わった2時間後。
冷たいリネンの海の中、Aが顔を出さずに声をかける。
その声音があまりにも細くて今にも死んじゃいそうで、
馬鹿らしいけど本当に死んでないか心配になって布団をはぐった。
「……暖房、つけて？」
「…かあいいねえ。」
分かった、ってのそりと起き上がる。
リネンの中で瞳をうるませてお願いしてきたAの白すぎる肌が、
リモコンを手にする俺の網膜にやけに痛く張り付く。
だってさ。
Aを手放すってことは、他の誰かがこの姿を見るってことでしょ？
寒さに弱くて、休日の朝は絶対布団から起きてこなくて、
すっぴんは赤ちゃんみたいで、
思ったよりも恥ずかしがり屋で。
背中にホクロがある。
肩甲骨の下らへん。
多分、A自身でも気付いていないような、俺だけが知ってる秘密。
その秘密、誰かがこれから知っちゃうんでしょ？
それが、康二かもしれないんでしょ？
「…どうしたの？」
ハッと手元のリモコンに視線を落とす。
温度をあげるのを忘れていた。
初期設定の22度から上がらないそれに、Aが堪えきれずに布団を被ったままこちらへのそりとやってきた。
ふわふわの毛布からひょこっと顔を出して、
「凍死しちゃうよ、辰哉くん。」
って笑いながら27度まで上げる。
「もー、死にたいの？」
「…まさか。」
「……まあ私はいいけどね。辰哉くんと死ねるなら。」
…あれ。
Aって、こんなに苦しそうに笑う子だったっけ。
Aの楽しそうな笑顔、どんなのだったっけ。
ホクロの位置は、知ってる。
誕生日も、職も。
…でも。
彼女の家族構成は？
好きな食べ物は？
いつから仕事に就いて、休日は何をしてるの？
『何も知らねえな、お前。』
翔太のそんな声が聞こえた気がして、小さく唇を噛んだ。
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2213人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ayaka(プロフ) - 初めてコメントさせて頂きます。前作からnecoさんの作品が大好きで、日々の活力になってます！数時間おきに更新されてるか確認してしまうくらい生活の1部になってます🥹大変かとは思いますが、最後まで楽しみにしてます！！ (2月9日 23時) (
レス) id: d413d8c2c2 (このIDを非表示/違反報告)
ガリリョ(プロフ) - 辰哉君とは幸せになれないんだね😭😭😭 (2月9日 12時) (レス) id: c4caf972cd (このIDを非表示/違反報告)
neco(プロフ) - まーさん» 2度目のコメント、嬉しい限りでございます( ; ; )🩵 お互い大事にしているのに、きっと愛し方が違ったからこその相互が生まれてしまって、両方引くに引けないところまで来ていて…。小雪さんが好きで、でも主ちゃんも大事、なんていう絶妙なバランスです…。 (2月8日 11時) (レス) @page39 id: fcbd2b4e2b (このIDを非表示/違反報告)
まー(プロフ) - 2度目のコメントすみません😭涙が出てきました...深さんの主ちゃんへの気持ちめちゃくちゃ伝わります...😭お互い大事に思っているのに、何故こんなことにってめちゃくちゃ悲しいです😭ほんと、報われて欲しい😭😭 (2月7日 17時) (レス) @page37 id: 936cda87a6 (このIDを非表示/違反報告)
neco(プロフ) - korokoroさん» korokoro様、いつもありがとうございます、お久しぶりです！( ; ; )korokoroさんの知りたかった所がどこなのかを知りたくてウズウズしちゃいます（笑）個人的に、康二→主ちゃんの矢印を『最後』には深澤さんが知っていた、というのがミソです（言っちゃう） (2月6日 21時) (レス) id: fcbd2b4e2b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：neco
| 作成日時：2024年1月25日 22時
