インビジブル・ラブ 9 side T

着信先 ページ27

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寒い。
手のひらを擦り合わせながら、今俺はショーケースに並んだ宝石を見つめている。
こんな所撮られたらほんとに終わりだから、目深に帽子を被って。
もう、不審者の完成なんだけど。




「…あの、何かお探しですか？」




品のいいお姉さんが遠慮がちに声をかける。
分かります、怖いよねこんな奴。
康二、恨むからな。
関係ない康二にまで飛び火させながら、
「あの、彼女に贈る指輪を探してるんですけど…。」
って言ったら、不審者じゃないと気づいてくれたのか
「ああ」
って、緩んだ頬で案内される。




「結婚ですか？それとも婚約？」

「えーっと、…」

「プロポーズ、みたいな？」

「プロ…。いや、」




不思議な顔をされた。
いやほんとになんでなんだろう。
別に俺自身イマイチ理由とかわかんないけど、指輪しかないって思っちゃったんだよね。
なんて、バカ真面目に言う必要は無いし。
そんな感じです、って曖昧な言葉で誤魔化せば、
「なるほど。」
って。
口下手な男だと思われたのかな。
Aの誕生石やら指のサイズやら聞かれて、もう全部フィーリング。

どーしよっかな、って。
数点見せてくれたけどしっくり来なくて、
何となく店内を見渡したその先に。




「…あ、」




何の飾りもついてない、簡素なやつ。
だけど、掘られた装飾がまるで流れ星みたいで綺麗で。




「…お目が高いですね。ですがそちら、お高いものとなっておりまして…。」




店員さんが尻込みするのも分かるくらい、結構値の張るもの。
…そりゃあそうだよな、
これだけ輝き全然違うもん。
カラットのダイヤとかがついてる訳じゃないんだけど、
溢れ出すオーラが違う。
まるで舞台の上のラウールみたいに。




「…これ、」

「え？」




そこから先はもう、なし崩し。
その指輪から目を離さずに、




「これください」




って。
数十分後、ホクホクした面持ちでジュエリーショップを後にした。




「…喜んでくれるかなあ…。」




らしくない。
相手のことを思って、嬉しさなんか感じちゃったりして。
俺の方が、クリスマスまで渡すの我慢できるか心配だな。
そう思いながら目的のスタジオまで足を運ぼうとした時。

不意に、スマホの着信音が鳴った。




「…は、」




着信先、小雪さん。




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