インビジブル・ラブ 9 side T

優しくしてね ページ20

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「おかえりなさい！」

「うん、ただいま。」

「今日はね、簡単なのにしたの。野菜が残ってたから野菜炒めにした。」

「そっか、沢山あったもんねえ」




あれから。
小雪さんの誘いを断ってから、月に２回くらい、
俺を試すように
【明日の夜、18時】
とか、
【今から】
とか、それだけ送って試すような事をしてくる。
それにいちいち「行かないよ」って返しながら、
毎日小雪さんの事がチラつく。




「辰哉くん？」




見上げたA。
お仕事疲れちゃった？って、ハンガーにアウターをかけながら聞いてきた。
俺よりも低い身長、野菜炒めをよそりながら聞いてくる。




「…んーん、」

「…そう？それならいいんだけど…。」




コントローラーを手にして格闘系のソフトを立ち上げるけど、今日もやってきた
【明日の夜】
ってLINEが頭の中をチラついて仕方がない。

…ねえ、なんで今更そんなこと送るようになったの？

もしかして西寺さんと上手くいってない？
それとも、手中にあった所有物が離れていって、プライドが傷ついたの？
多分、後者。




「辰哉くん。…辰哉くん！」

「…あ、ごめん。どしたの？」




もー、聞いてる？
現実と脳内の境界線が曖昧な俺を叱咤しながら、
Aが冷蔵庫からパックを取り出した。




「これ冷蔵庫の中に入れとくね。」



「んー。…え、何？それ」



「ご飯だよ。作り置きしたの。」



「うそっ、…」




近づく。
野菜炒めのいい匂いと、Aのボディクリームの甘い匂いが鼻腔を擽った。

Aは、どう思ってる？
俺の事好きだから、利用していいよなんて言ってくれたの？
こんな、1年弱も付き合ってくれてるの？
仕事で忙しいのにご飯作って、
家にも招いて、
いつも部屋を綺麗にして。


…もし、
「やっぱり俺は小雪さんの事が好き」
って言ったら、どんな反応をするの？
泣く？怒る？
それとも呆れる？

ただただ悲しそうに笑って、でも受け入れて。
そっと俺の背中を押すのかな。

…ああ、なんて言うか。




「…バカ、」



「バカだよ。A。」




バカだよ。
俺もAも、バカなんだよ。




「ほんと、キス魔。」




ねえ、A。
俺、どうしたらいいかな？

小雪さんの事がまだ好きなわけじゃないんだけど、
連絡が来る度に苦しくなんの。
好きだったあの頃を思い出して、しんどくなんだよ。
でも、Aの事を手離したくない。
これって、何が正解なの？




「…優しくしてね。」




分かってるよ。
…でも、約束出来るかな。
今日は無性に、壊したくて仕方がない。


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