インビジブル・ラブ 9 side T

呼ばせ方 ページ13

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「…何で？」




何で？なんて。
そんなの、口にしないだけで薄々分かってるでしょ小雪さんも。

てか言ったよね？俺、ホテルで。
好きだよ、って。
だから西寺さんとの関係を切ってくれ、って、言ったよね？

もう1回最初から始めようとする、無かったことにするようなその態度にはもうウンザリ。


この前の給料で買ったロレックスの時計をチラリと見ると、
とっくに帰宅予定時間なんか過ぎてる。
ホントならもう車に乗り込んでマネージャーが家まで送迎してくれてんのに。

「もうこの話はここで終わりね。」
って、パンって手を叩けば全てが終わるのに、
そう出来ないのもまた自分の弱さ。




「…辰哉。」




…あー。
やめてくれよ、その呼び方。
ウンザリする。
拒めない俺も、
それをわかってて呼ぶ小雪さんも。




「…元に戻りましょうよ。」




小雪さんが、俺の胸板にしなだれかかってきて。
…なんか、めんどくさくなってきた。
もうこれでいいかもな。
あの日々が帰ってきて、
密会してホテル行って、
……それで。


それで、？


【辰哉くん】
最近呼び方を変えさせた、甘い恋人の声が脳内に蘇ってきて。
Aに「辰哉」って呼ばせたくないのは、これが原因。
この人の事、無駄に思い出したくなんか無いから。




「…辰哉、？」




気づいたら、小雪さんを自分の体から引き剥がしていた。




「小雪さん。」




彼女の目が揺れる。
……違う。
コレじゃない。
コレじゃなくて、もっと丸くて柔和な…。




「ごめん。俺、彼女いんだよね。」




ヘラ、って笑った。
その言葉に、悔いは無い。



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