いつも隣で【男性声優】

★泣き顔(津田健次郎) ページ19

「Aの泣き顔が見たくて」

雨の日、彼の家でのおうちデート。

泣ける、と話題の映画のDVDを持って、津田さんは平然とそんなことを言い放った。

『…………は？』

「A、滅多に泣かないでしょ」

『…まあ、はい』

「だから見てみたいなって」

『…いや、意味がわからな…あ、ちょっと』

私が困惑している隙に、津田さんはちゃっかりDVDをセットし始めた。
…ダメだ。もう止められない。

私は諦めて、クッションを抱えてソファーに体を預けた。
彼も右隣に座って、リモコンを操作する。
まもなく、映画が始まった。

・・・

約2時間後。

私は、自分でもびっくりするぐらい、号泣していた。
こんなに泣いたのはおそらく人生初だ。
それぐらい素晴らしい映画だった。

「……超泣いてる」

隣の津田さんが、驚きと呆れが混ざったように呟く。
誰のせいですか、と言い返すほどの余裕は1ミリもない。

だから、次の彼の言葉にも、反応ができなかった。

「………………可愛い」

聞き間違いかと思った。

すると後ろから彼の左手がまわってきて、私の体はやや右に倒される。
自然と津田さんに寄りかかる体勢になってしまい、どうしていいかわからない。

そのまま優しく頭を撫でられる。

「可愛いじゃん、泣き顔も」

…でも、と彼は続けた。

「こんなに泣くとは思ってなかったなぁ」

言いながら軽く笑われる。
つられて私も笑ってしまった。

「……やっぱり、笑ったほうが可愛い」

彼はいつもの調子でそう言って、ちゅ、と頬に軽くキスを落とした。

驚いて思わず彼の顔を見ると、ばっちり目が合って、すかさず唇を奪われる。

目や鼻だけでなく、頬も真っ赤にした私を見て彼は、

「泣いたり笑ったり照れたり、忙しいなぁ」

なんて言って、また笑った。

『…誰のせいですか』

「ふふ」

彼は悪びれる様子もない。
なんか私ばっかり翻弄されているみたいで、ちょっと悔しい。

再び、彼の手が私の頭に乗った。

『……津田さん、』

「ん？」

『…また、二人で映画見たい、です』

思いきって、そう言ってみた。
これは私の本音だ。

「________いいよ。……ちなみに」

『はい』

「今日はまだ終わりじゃないんだけど、」

『………？』

意味深なその言葉に首をかしげる。
と、前触れもなく、津田さんは私の右耳を軽く噛んだ。

ひゃ、と思わず声が漏れる。

そのまま耳元で、彼の色っぽい声がした。


「イヤラシイ顔も、見せて」

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