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「これからのことは、任せるよ」
「もう呪術から離れてもいい。遠くに逃げてもいい。夏油と一緒にいてもいい。Aと一緒にいてもいい」
「その選択は、君に任せる。君がした選択なら、間違いじゃない」
これからの選択。
芹菜さんのいない未来の選択。
そんなこと、あの日から考えたことなどなかった。
どこに行っても芹菜さんと一緒で、死ぬときも生きるときも一緒だと思っていた。
疑いなどしなかった未来だった。
もう、前も見えない。
目の前にいる芹菜さんでさえぼやけて見えるんだ。
未来だなんて見えるわけがない。
「君なら、大丈夫。たとえ間違えたと思っても、やり直せるよ。選んだ道が、正解なんだよ」
「い、いやだよ、芹菜さん。まだなにも、終わってないじゃないか」
芹菜さんの手が僕に触れる。
重ね合わせた指先から、僕の体温と芹菜さんの体温が混ざりあっていくのを感じる。
間違いだらけの人生だと思っていた。
親を置いて逃げた日から、呪いを見て見ぬふりをしたあの日から。
そもそも、生まれたことさえも間違いだと思っていた。
それでも、だ。
この間違いだと思っていた世界でないと、芹菜さんには出会えなかった。
芹菜さんと出会えたことが、僕の人生で1番の功績であり、幸福であり、生まれた意味だ。
「元々、死んでんだよ、私は」
「今ナズナと一緒にいられることが、奇跡だから。最期は、ナズナと話したいと、思ったから」
「それ以上は何も、望んでないよ。……ナズナは?何も、言わないの?」
言いたいことはたくさんだ。
でもそれは、感情が、涙が邪魔をして喉を通らない。
握る指先も震えてしまう。
でも君は行ってしまうから。
最期にと選んだのであれば、それに応えたい。
「出会ってくれて、ありがとうございます」
「うん」
「芹菜さんがいないと、何にもできないけどっ」
「……うん」
「芹菜さんと出会えた人生を、無駄にしたくない」
芹菜さんと出会えたことが幸福なのだから。
幸福な人生を、芹菜さんとの日々を、誰にも上書きされたくない。
生かされたこの命を無駄にしたくはないと思う。
芹菜さんが守ろうとしたものを、自分では壊したくない。
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kyon(プロフ) - きゃるさん» コメントありがとうございます。こちらこそ、出会ってくれてありがとうございます!!もったいないお言葉です。これからも頑張ります! (3月8日 11時) (レス) id: c6557ad466 (このIDを非表示/違反報告)
きゃる(プロフ) - すごい作品に出会えたなと思います。素敵な作品をありがとうございます!!大好きです。これからも陰ながら応援しています! (2月22日 23時) (レス) @page23 id: fa1bdc5357 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:kyon | 作成日時:2023年12月29日 21時