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柚姫から微かにするAの気配。
そこにいるのに、そこに居ない。
妹に捧げてきた芹菜にとって、それがどれだけ残酷なことか。
込み上げてくるどうしようもない感情のはけ口はない。
「すまない。こんなことになって」
「謝るくらいならどうしてっ」
「こうしないといけなかったんだ」
芹菜の脳内に溢れ出す記憶。
戻ってくることはないあの日々。
後戻りはできないあの日の決断。
「Aじゃなくたって、良かったでしょ!」
「わざわざ、家族を壊してまですることじゃなかったでしょ!」
「っ私の家族を返してよ……!」
ただ、続けばよかった。
偽物でもよかった。
妹が本物だと言われてもよかった。
ただただ、家族で過ごした日々を続かせてくれればよかった。
芹菜の願いは、それだけだった。
「……すまない」
「Aじゃなきゃ、いけなかったんだ」
「1000年前の区切りをつけるには、A以外では出来なかった」
芹菜には芹菜の願いがあって、柚姫には柚姫の願いがあった。
どちらが正義かだなんて語れやしない。
両親が死んだ。
芹菜が死んだ。
Aが呪術師の道を選んだ。
数々の事実があるだけで、それが正解か不正解かなんて誰も分からない。
「……でも、道徳的なものではなかったと思うよ」
「そんなことまでして叶えたい夢は何なの」
「愛する人の為に、何をしてでも成し遂げたいことがある。お前にも愛する人がいるから分かるはずだ」
ボロボロになった土地に2人の影が伸びる。
夏油の気配はすっかり消えた。
そして、1つ気配が増えた。
それも、強烈な呪力を纏っている。
「そろそろ時間だ」
芹菜の心に右手をかざす。
最後の術式。
これを1番、Aに教えたかった。
戦闘に使えるとか、そういうことではない。
Aが傷つかないために。
それがこちら側のエゴであっても構わない。
最後まで交わらない2人。
呪霊同士でも、志が違えば上手くはいかない。
けれど、このとき2人の心にあったもの。
それはたった1人の少女であり、妹であった。
過去を、未来を思い、その志を託す。
2人の思いが、1人の人間の背中に託される。
誰かの為を思って闘うもの。
それは、どんな闘いであっても、どんな結末であっても、その思い自身は誰が何と言おうと美しい。
柚姫が最後に教え、芹菜に施した術式。
その名を、菫青石と呼ぶ。
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kyon(プロフ) - きゃるさん» コメントありがとうございます。こちらこそ、出会ってくれてありがとうございます!!もったいないお言葉です。これからも頑張ります! (3月8日 11時) (レス) id: c6557ad466 (このIDを非表示/違反報告)
きゃる(プロフ) - すごい作品に出会えたなと思います。素敵な作品をありがとうございます!!大好きです。これからも陰ながら応援しています! (2月22日 23時) (レス) @page23 id: fa1bdc5357 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:kyon | 作成日時:2023年12月29日 21時