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「西森さん、ご案内の準備が出来ました」
「じゃあ、轟くん。ありがとう」
「こっちこそ、ありがとな」
看護師さんが迎えに来る。
お母さんのところに行く準備が出来たのだ。
頑丈な警備がされてある、あの病室へ。
ガラス張りの、まるでショーケースみたいな。
轟くんの新しい一面を知れた。
昨日の体育祭で心の動きが確かにあった。
彼もこうやって、向き合った。
過去と未来は遠いようで近い。
過去さえ振り切れたら、未来はすぐなのだ。
昨日の自分が明日の自分さえ超えれば、未来はすぐ届く。
「西森。大事なのは、時間じゃねぇ…と思うから」
じゃあな、と言葉を残し、病院の出口へと向かう。
時間じゃない。
過去と、どう向き合うか。
私は、向き合うことが出来るだろうか。
今まで否定し続けた過去を、未来を。
超えることは出来るのだろうか。
「素敵な彼氏さんね」
「なっ、違いますから！」
「んふふ。それでも、彼の言う通りね。向き合うのに、時間なんて関係ないわ」
彼氏と勘違いされたことにはいささか不満を感じるが、看護師さんが笑顔で関係ない、と言ってくれて安心した。
私なりに、ゆっくり向き合ってみようと思う。
それにしたって、何をどうやって彼氏と間違うのか。
普通のカップルにしては距離がありすぎる。物理的にも、心理的にも。
それともあれか。クラスの女子が、男子と少しでも仲良く話しただけで、好きだと噂が経つ嫌なやつか。
看護師さんも冗談で言ったのだと思うから、もうその話題を口に出すつもりはない。
轟くんの彼女はもっと、こう、儚げな女の子だ。きっと。
1人で想像して、納得する。
病室へと進んで行く中で、沢山の人とすれ違う。
車椅子の人、元気に駆け回る子供。
ここにいる人、みんな何かを抱えている。
それが病気の人もいれば、お母さんみたいに個性によるものの人もいる。
ヒーローは、人を救う。敵と向き合う。
絶対に諦めない。
その欲の強さが、最後に必ず勝つ。
みんなが笑って幸せに暮らせるために。
今、私に出来ることはなんだろう。
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作者名：kyon x他1人 | 作成日時：2021年5月22日 21時
