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「…決勝で、お前の顔がチラついた」
「え？」
「左が憎いって言った俺に、西森はお揃いだって言っただろ。西森の表情が暗かったから、ずっと引っかかっていたんだ」
そのお揃いの話は掘り出さないでほしかった。
口を滑らして言ってしまったことを、今思い出しただけでも顔が赤くなりそう。
失言だ。恥ずかしい。
でも、それが引っかかっていたというのはどういうことだろう。
もしかして、嫌すぎて引っかかっていたのか。
それなら、今ここで全力で謝りたい。全力スライディング土下座は、かっちゃんで鍛えられている。
「俺は、嬉しかったんだと思う」
「緑谷も西森も、ズカズカと入ってきた。それでも、俺の原点を思い出させてくれたんだ」
「ありがとな」
微笑みと言っていいのかは分からないが、轟くんが初めて笑みを見せた。
轟くんからこんなに柔らかい言葉が出るなんて思わなかった。いつもみたく、きつい言葉なんで出てこない。
寧ろ、お礼を言われるようなことは何もしていない。轟くんがお礼を言うなら、私は謝りたい。
轟くんには、いろいろと。家庭の事情にズカズカ入ったり、助けられもしたし。
私はお礼を言われるようなことは何もしていない。
「さっき、お母さんと話してきた。今までのこと、沢山話した。驚くほどあっさり許してくれたし、謝ってくれた」
「心が軽くなった。やっとスタートラインに立てた気がしたんだ」
「なぁ、西森。俺は、お前のあの暗い顔が忘れられねぇ。お前がズカズカと入ってきたように、俺も入ってもいいか」
「その花は、誰への贈り物なんだ」
轟くんとこんなに会話が続いたのは初めてだ。
こんなに喋る人なのか。
初めて知る轟くんの一面に戸惑う一方、花のことを聞かれ、内心焦る。
どこまで言ったらいいのだろうか。
事件のことは、あまり話したくない。気分がいい話ではないから。
お母さんとの話で頭をいっぱいにして、家に帰ってほしかった。
轟くんの私を見つめる目があまりにも優しすぎて、心が揺らぐ。
本当に話してもいいのだろうか。
家族以外は、出久くんとかっちゃんしか知らない。
最近、心に留めておこうにも、夢に出てきて思い出してしまう。
ここで、ぶちまけてもいいのだろうか。
__素直になっていいのよ。ありのままのあなたでいいの。
いつの日の言葉が、お母さんの言葉が頭の中を反芻する。
「…この花は、お母さんのなの」
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作者名：kyon x他1人 | 作成日時：2021年5月22日 21時
