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冷たい空気と沈黙。
周りからは微かに誰かが呻く声が聞こえる。
きっと、轟くんが凍らした人たちだろう。
轟くんの表情は、今にもブチ切れそうで。
かっちゃんなら確実に殺されている。
気迫に圧倒され、思わず後ろずさってしまいそうになるが、グッと堪える。
ここで下がったら、鼻で笑われて置いていかれるだけだ。
睨み合いにも近いようなやり取りを続けていると、不意に横から笑い声が聞こえてきた。
くつくつと喉を鳴らし、最後には声に出して盛大に笑う。
この場で今笑うような奴は、ヴァッサゴしかいない。
「ふははは、あはははは！あーあ、お腹痛い」
「何、急に…」
「いいや、思い出しただけさ。昔を」
急に何を言うのか。昔を思い出した？それだけで笑うのか。今、この状況で。
轟くんをチラリと見るが、轟くんも私と同じような顔をしている。
何が言いたいの、そう聞こうとした時。
ヴァッサゴに下に黒いモヤが現れる。
このモヤ、あいつだ。
私がここに居る原因。
まずい、逃げられる。
そう思った時にはもう遅くて。
身体の半分は浸かっている。
「その行きたいって気持ちは、過去の失態からかな？」
「憧れって、あの場にいた2人？それともお母さん？」
「何、何が言いたいの、」
誰。ヴァッサゴは、誰。何を知っているの。
過去の失態。あの場にいた2人、お母さん。
おかしくなったのか？幻聴？
…ダメだ、私は次の言葉が予想出来てしまう。
あの日もそうだった。こうやって、いなくなる瞬間。もう私たちが手を出せなくなった時、叫ぶ。
「西森雪乃。俺は今日を忘れないさ！」
酷い笑顔で、この世には快楽しかないかのような声色で。
私だって、忘れもしないさ。あの日の事を。
もう一度下に目をやった時は、もういなかった。
先程と変わらない地面がただそこにあるだけ。
「西森雪乃…って誰だ」
最もな質問だろう。
何も知らない人からすると、疑問でしかない。
聞いた事のない名前と、出来事と、言葉。
轟くんは、関係ない。
「西森雪乃は、私のお母さんの名前。それだけ、後は関係ないよ」
「関係ないって、お前」
「あの黒いのが来たってことは、向こうにも動きがあったんだ。早く、行こう」
轟くんの静止は聞かず、私は進む。
今は、何も考えたくない。
考え出したら、私は立ち止まってしまいそうだ。
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作者名：kyon x他1人 | 作成日時：2021年5月22日 21時
