タンゴ ページ14
「亮ちゃん」なんて、ネコみたいに頭を擦り寄せてくる仕草がかわいくて、唇を重ねる。
甘くて、気持ちよくて、キミしか考えられなくなる。俺しか見ることのできないキミの顔。
キミはどこを取ってもかわいい。キミの全てをかわいがりたい。それに、唇も良いけれどなだらかな首筋にもそそられる。
唇を首筋に滑らせて、俺だけの赤い印を付けた。とてもよく似合う、赤い印。刻む度に鳴くキミに溺れる。
おずおずと首に手をまわすキミと、さっきよりも深い口付けをする。恥ずかしがって頬を染めるキミの熱が流れ込む。二人の体温で溶け合うまで、ずっとこうしていたい。だんだん力が抜けていく体を支えると、キミの手が背中にするすると落ちてきた。
キミにもっと触れたい。もっと触れてほしい。
何もかもを捨て去って、絵画のように時間さえも溶けてしまえばいい。俺たちだけの世界。
キミの為だったら、何だってできる。大きい口を開けたワニを放つ事だってできる。全てを食べ尽くす恐ろしいワニ。チクタク鳴る時計さえも。
だから、俺にはキミを頂戴。無垢で汚れの無いキミを。
けれどキミは恥ずかしいのか、唇しかくれない。
俺はこんなにもキミが欲しいのに。もしもキミが望めば、空を駈ける麒麟だって、琵琶を乗せた象だってあげよう。
キミが欲しくて堪らなくって、遠い異国のダンスみたいに、もう一度キスをした。赤い布がターンにあわせて翻るような。赤と黒の靴が露を飛ばすような。
背中に置かれた手に、ぎゅっと力が入る。
伸びた爪が背中に突き刺さる。きっと俺の背中には、赤い三日月が浮かんでいるだろう。
目に涙を溜めて抵抗し始めたキミに負けて、ゆっくりと唇を離した。その先が欲しかったけれど、かわいいキミのお願いならば仕方が無い。キミはいつだって、俺の心を悩ませる。
きっとこの後だって「手繋いで」とか、「ぎゅーして」とか、かわいくオネダリするんだろう。
だけど、あんまり無邪気に悪戯すると、意地悪したくなる。俺はキミの悲しい顔だって、欲望に満ちた顔だって、甘く啼く声だって大好きなんだから。
優しさだけで抱きしめられるのなら、とっくにそうしてる。
ネコのように気まぐれなキミ。
かわいい、かわいい、俺だけのキミ。
黒ネコのように気まぐれなキミ。
ほら、もう泣かないでよ。
愛しさだけで痛みが癒えるのなら、俺の想いを全てあげる。
愛しいキミの為なら、悪にでもなれる。
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作者名：柳 | 作成日時：2021年3月2日 17時
