同僚の彼。*-1-/trp ページ5
社会人一日目、私に最初に声をかけてくれたのは彼だった。
春の寒さに凍えながら、ほかの新入社員たちとともに小さな部屋で待っていた時のことだった。
空調は効いていたものの、窓には水滴がポツポツとついていて、触ってみるととても冷たかったのをよく覚えている。
はぁ、と息を吐いて自分の手を温めようとするが、それは上手くいかず結局自分の手にかかったのは冷たい息だった。
「珈琲、いる？」
不意に聞こえた一言に私は顔を上げる。
クルクルしていてふわふわしてそうな髪。明るい口調とキラキラした眼差し。
第一印象はとてもよかった。
「あ、ありがとうございます！」
と返せば、どういたしまして、と彼は笑った。
先輩かな、と思ったのだが彼は同期。そう聞いた時はこれでもかと言うほど驚いて、「そんな驚く！？」と彼にも言われた。
席は隣。4つのデスクが並んでいる両端に先輩方、そして間に私たちだった。
気づけば、日に日に仲良くなって行っていた。コミュ障だった私と趣味が合い、お昼も一緒に食べる。たまにはお互いの家に遊びに行ったりもした。
私にとって、大親友。それが彼だ。
「卵焼きもーらいっ！！」
「おいまて！それ私の！」
「いいじゃん！美味しいんだから〜」
「そりゃあいつもとりっぴぃが食べてるう○い棒入りのやつがまずいだけだからね」
「お！うま○棒馬鹿にすんなよ！」
お昼休みの何気ない会話が。上司に「君たち仲良しだねぇ」って褒められることが。
そんなことがとても嬉しかった。
飲みの席でも。
4つのデスクの両端の先輩方と飲みに行けば、必ず言われることに、私は毎回自慢げに返答していた。
「二人とも仲良しで羨ましいよ。」
最早会社内で1番仲良しだって言われていた私たち。
私は胸を張って自慢したものだ。
「私たちは大親友ですから！」
これが私のお決まり文句。
だけど、その度に少し苦笑いを含む笑い方をする先輩方と不貞腐れたように「せやな」というとりっぴぃの反応の悪さを私は今まで理解できなかった。
先輩方が私たちを褒めるのはだいたい飲み会の終盤だった。
否、終盤だった訳ではなく、それが発せられるとだいたいすぐ終わるのだ。
理由は、彼が帰ってしまうから。
ご機嫌ななめな状態で「俺、帰るわ」と彼がいえば、先輩達も「そうだね、」と言う。
私だけが理解できない空間でさまよっていた。
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