お花畑の魔法-3-/nnc ページ13
気がついたら私たちは静かな森に来ていた。
真っ暗な森の外れに見つけた、小さなお花畑。
人影も、生き物の影もない、秘密の場所とでも言うような、静かな、静かな所。
静かだったけれど、二人でいるだけでどれだけ心強かったことか。
逃げきれて、ようやく二人きりになれるという安心感。
はぁ、はぁ、と二人で息を整えて、私たちは笑った。
笑って、笑って。
一体どれくらいの時間が経っただろうか。
「魔女だと、恋できないんやな」
彼が呟いた。
前から考えていたこと。この掟が憎くて憎くて仕方がなかった。
「ねぇ、ななくん。」
なら私の存在を変えれば。
「私、魔女辞めるね。」
ニコッと微笑めば、お腹の前で合わせた私の手から紫色の光がこぼれ出す。
今まで使ったことの無い魔法。
そして最後に使うことになる魔法。
両手を勢いよく上へ振り上げて離すと、宙にはたくさんの光が浮いていた。
星空色、夕焼け色、蜂蜜色、涙色、恋色、飴色。
そして、大好きな彼の若葉色。
___________
「A〜?」
彼の声を聞いて泉から湧き出すように溢れ出した記憶は魔女だった頃の記憶。
今の私は、もう魔女じゃない。
普通の人間。
普通の人間として彼を好きになれるのだ。
「な、なくん。」
涙の混じったくぐもった声で、彼を呼ぶ。
いつもと変わらない笑顔がこちらへ向けられれば
これでやっと彼に云うことが出来るのだ。
もう自分の気持ちを押し殺して森の神から隠れる必要なんてないから。
ようやくかなった夢。
___ななくんのことが好きです。
できるだけ笑顔で。
今度は人間として、人間に恋をして。
___俺も好きやで、A。
彼の瞳に映った空色の魔法は、花畑に落ちて静かに消えていった。
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