居場所 ページ38
「へえ、そんな感じなのねえ、へえ」
「見るなよ。それからバカ長男とは、何だ」
仲良さそうに言い合う親子を見ていると
長い間の私の悩みも大したことではないと、
一旦は、そう思えてくる。
「近々、Aと結婚するよ、俺。
まずは、両家の顔合わせをしたいんだ、
よろしくお願いします」
ここでも翔くんは、あっさりと告げた。
「結婚式とか住む所とか考えるのは、後。
いい大人なんだし任せて貰っていいよな。
誰か反対の奴、いる？」
白いレースのカーテン、飾られた桜の枝、
高価なティーセット、微かに流れる音楽。
穏やかな休日の午後に彼が堂々と宣言した。
「そうだな、任せても良いだろう。
だが、Aさんのご実家の意向を聞いて
失礼のないようにしなさい。
Aさんは、一人娘で後継者なんだろう？
ご両親の想いは、並大抵じゃないんだから
お前の一存で決めたりしないように。
それだけは、きちんと守りなさい」
お父様が諭すように言うと、翔くんも頷く。
真剣な話は、本当にそれだけだった。
でも私は、心のどこかで櫻井家の皆さんは、
翔くんと千秋さんに結婚して欲しいと、
そう願っているんじゃないかと不安だった。
家族ぐるみで生まれる前からのお付き合いで
私と違い、ずっと受け入れて来た彼女を
そのまま家族に迎えたかったのだろうと。
ご両親の表情や言葉の裏側に
そんな一面が隠されていないかと探して
身体中からアンテナを張っていた。
幸せな空間の中で、私だけが緊張していて
居場所を見つけ切れない感覚があった。
翔くん、気付いていないんだろうな。
もういい加減してくれって言ってたし。
あっさりと認めてもらえた有り難さに
安心していて感謝していて、嬉しいのに
私は、こんなに執念深くて心が狭い。
トイレを借りに一人で廊下を歩いた時、
ふと見えた浴室のドアや知らないお部屋、
窓から見えた中庭でさえ。
−千秋さんは、昔から知っているのよね−
小さく声に出てしまう卑屈さを持て余して
煮えたぎるような嫉妬に深く息を吐く。
ずっと抱え続ける感情を抑える方法を
早く身に付けなければ。
そして両家の顔合わせのお食事会は、
２週間後の週末と決まった。
双方合わせて１０名でのお食事会は、
タクシーで気軽に移動できる距離にある、
テーブル席で戴く和食のお店を予約した。
お店は翔くんとお父様が探してくれて、
携帯の画面越しでも落ち着いた雰囲気で
それらしい格式のお店だと分かった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 672人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
おはな(プロフ) - mamoさん» 書いていて、切なくなって手が止まる、そんなことが何度もありました。すれ違う時間の長さ、疲弊しましたよね、きっと。それもリアルな彼との距離かもしれないと思ったりもして。でも最後のやりとりは考えていた通りにできました。優しいコメント、ありがとうございます (2021年6月13日 20時) (
レス) id: 4a84da09b3 (このIDを非表示/違反報告)
おはな(プロフ) - きーたんさん» 大好き、と言って下さって、ありがとうございます。すれ違いも甚だしくて、一体どうまとめられるのかと迷った時期もありました。最後の２行は絶対に書こうと思って、そこを目指して何とか辿り着くことができました。いつだって「信じることがすべて」ですから。 (2021年6月13日 20時) (レス) id: 4a84da09b3 (このIDを非表示/違反報告)
おはな(プロフ) - たまりんさん» 今回のお話は、お察しの通り難産でした。全く進められない経験は初めてで、迷走しました。環境の変化を侮ってはいけませんね。ですが、この後も書いていこうと思っています。たまりんさんにもお越し頂けるよう頑張ります。丁寧なコメントをありがとうございました。 (2021年6月13日 20時) (レス) id: 4a84da09b3 (このIDを非表示/違反報告)
おはな(プロフ) - ていくさん» この先もきっとあのお部屋の景色は何度も蘇って、その度に宥めてもらうのだろうと期待して書いていました。そのくらい甘やかしてもらわないと、ですよね。繋がって支え合える二人になって欲しかったので頑張りました。コメントありがとうございます、励みになります。 (2021年6月13日 20時) (レス) id: 4a84da09b3 (このIDを非表示/違反報告)
おはな(プロフ) - にゃんちきさん» 女性側のご両親となれば、心中複雑で譲れないものがあって然るべきですよね。そこを頑張ってもらいたいなと思いました。頑張れるような男になったからこそ、この展開もあり得るかと。最後は分かり合えるようにと願いながら書きました。読んで頂きありがとうございました (2021年6月13日 20時) (レス) id: 4a84da09b3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：おはな
| 作成日時：2021年4月4日 0時
