ピオニー ページ11
Aは勉強を終えて
俺は仕事を終えてから
夕暮れ時に待ち合わせる週末。
小さな花柄のワンピースを好んで着ていて、
羽織る上着が季節で変わって
それを見ているのも楽しかった。
たまたま見つけたバーでは
日本の、ごく普通のビールを置いていて
何倍だろう、３倍は軽く超える値段設定に
呆れながらも割と頻繁に飲んだよな。
「やっぱり好きかも、この風味」
「懐かしいって言うか、しみついてる感じ。
日本を感じちゃうよな」
頬を紅く染めた緩んだ笑顔のAが
ふと沈んだのを見逃さなかった。
「思い出したくないことでもある？」
そう聞いてみたのは心配したからではなく
正直に言うと軽くムカついたからで、
俺も抑制が解けてしまっていたんだろう。
Aは凍るような無表情で一言だけ
半分残ったビアグラスに向かって言った。
「あるわ、自己嫌悪で死にそうよ」
どうしてだか悔しいと思った瞬間、
猛烈に後悔したよ、俺は。
開けてはいけないパンドラの箱、
手を伸ばしてはならない心の奥底。
安易に触れようとしたなんて
Aを守るナイトとしても失格だ。
「そうか、大人になったんだな」
ぼやけた合槌で逃げ遂せた機転を
自分では評価することとして。
「俺にもあるよ、それなりにさ。
女の子は逞しくて強かで、敵わない」
「誰のこと？」
「言わねえよ、そんなの」
ぼんやりと村椿りかのことを思い出し、
その後の女の子たちを思い出し、
カウンターの横に座るAを感じる。
ピオニーって何の花なんだろうな、
気に入ってるって言ってたな、A。
華やかで可愛らしい香り、似合ってるよな。
「な」は強調の「な」だとか何とか
酔いに任せてつまらない思考に泳ぐ。
「翔くんって優しいけど冷たいのね」
お前なあ。
そういうの男に言うと怖い目に遭うぞ。
絶対、脈ありだと勘違いされて、
お嬢様は呆気なく騙されて
気付いた時には服着てねえからな。
言わねえけどさ。
この場合の「さ」は何だろう、
思考を空中に投げて追加のビールを頼む。
「私も飲みたい、お願い」
だから！
Aを滞在するホテルに送り届けて
向かいのホテルにチェックインする。
守らなくてもいい女に電話して
崩れて重なる音に堕ちていく夜。
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おはな(プロフ) - いちごさん» いちごさん、少し前のお話を、こうして褒めてもらえるなんて嬉し過ぎます。気になる所はもちろんあって、もう少し何とか出来なかっただろうかと思ったりします。それは、まあ、これからのお話で頑張ってみますね。どうもありがとうございました。 (2021年7月17日 17時) (
レス) id: 4a84da09b3 (このIDを非表示/違反報告)
いちご(プロフ) - 久しぶりに読みたくなって読み返していました。いつ読んでもやっぱり素敵な作品です。 (2021年7月14日 11時) (レス) id: a03e1783da (このIDを非表示/違反報告)
おはな(プロフ) - むにゃむにゃんさん» 幸せな人を見ると幸せになりますよね。そうやって繋がっていけたらと純粋に思ったりします。お話の二人はきっと幸せまっしぐらですね。甘い甘い時間を大切に過ごしてくれることと思います。むにゃむにゃんさんの願いも叶いますように。 (2020年4月26日 23時) (レス) id: 4a84da09b3 (このIDを非表示/違反報告)
おはな(プロフ) - にゃんちきさん» 確かに現実から逃げたくなるような毎日ですね。厳しい現実に妄想の体力も奪われそうです。だからこそ、いつもと変わらない彼らの笑顔に安心します。辛いだろうし無念だろうし、でもちゃんと笑顔でいてくれる強さが頼もしい。私も次の準備を頑張ろうと思いました。 (2020年4月26日 23時) (レス) id: 4a84da09b3 (このIDを非表示/違反報告)
おはな(プロフ) - さとさん» さとさん、嬉しいコメントをありがとうございます。彼の甘い甘い気持ちの変化、書いて良かったなあと思っています。主人公はお嬢様なのでどこか鷹揚とした感じで書きました。気に入って頂けて良かったです。次の準備も始めようと思っています。またお逢いできますように (2020年4月26日 23時) (レス) id: 4a84da09b3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：おはな
| 作成日時：2020年3月15日 23時
