蜜蜂と花《青》 (ページ8)

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『あ』

思わず声を出してしまい、慌てて口を両手で塞ぐ

が

時既に遅し

私の声に反応して、ゆっくりとこちらを振り向いた

さらさらとした黒髪に、整った顔

この学校で、彼の事を知らない人は居ないだろう

『藤井、流星』

風が吹いて、彼の手にある"それ"の匂いが、再び私の鼻を掠める

思わず、眉間にシワを寄せる

その姿を見た彼は

藤｢あぁ、ごめん｣

そう言って火を消した

そして、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる

右の口角をｷｭｯと上げ

藤｢煙草吸うてるん、言わんといてな？｣

口に人差し指を立ててふわっと笑った

私はそんな彼を、黙って見つめる

藤｢君、俺の名前知っとったん？｣

首を傾げて聞いてくる

『ま、まぁ』

多分、貴方のことを知らない人は居ないと思いますよ？って言いたかった

が、辞めた

ふーんと言って、私をジロジロ見る

『な、なに？』

藤｢君、名前は？｣

咄嗟に思った

でも次の瞬間思ってたことが口から出てしまった

『なんで教えないといけないんですか？』

しかも敬語で

藤｢やって、俺だけ知られてるんは気分良くないやろ｣

正直、めんどくさいな

関わりたくない相手だし

でも、これは私の憶測だけれど

言わないと、帰してもらえない気がする

ぼーっと一点を見たまま口を噤んでいる私の顔を覗き込んで

藤｢ねぇ～｣

小さい子供が親に縋るような目で私を見てきた

ほんとに

ほんとに小さな声で

『三島、Aですけど』

そう言った

すると彼は一度びっくりしたような顔をして

藤｢あー！君が噂の！｣

『は？』

噂？

何のことだ

藤｢美人で性格ええって噂の子か！｣

ほぉほぉと顎に手を当て再び私をじっくりと見る彼

あー、めんどくさい

『もうええですか？そろそろ帰るんで』

そう言って鞄を取り屋上を去ろうとドアに向かって歩んでいると

藤｢でもびっくりやな～｣

なんて言う彼の口から零れた次の言葉に、私は息を呑んで立ち止まった

藤｢ほんまは、演じてただけなんやな｣