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「コーヒー飲む?まだ出勤したばっかりだけど。」
「貰おうかな。」
「ブラック?」
「うん。」
黒沢が大量の資料を机に並べている間に二人分のインスタントコーヒーを淹れ、カップの一つを手渡すとお互い机を挟んで向かい合うように席に着いた。
「今後の業務だけど、単刀直入に言う。部長の方針としてはAを若手AD同様、一から指導するつもりは無いらしい。Aは報道のディレクターとしてそこそこのキャリアがあるし、それなりの基礎があるだろうからって。」
「基礎があるって言っても報道と制作じゃ全く違うでしょ?私、バラエティー制作は本当に経験ないよ?それこそ新人研修で見学した程度だし。」
「まぁ、それはそうなんだけど……、これは建前で、『Aほどの“有能な人材”をADの中に放り込んだところで、足並みが揃うはずがない』ってのが部長の本音。」
「なにそれ。」
「どんなに優れていても集団行動ができないんじゃ意味ないって話。」
「……やっぱり、さっきの怒ってる?」
「俺だってたまにはやり返すさ。」
そう言って不敵な笑みを浮かべるこの男は、やはりどこまでも食えないやつだと改めて思わさらた。
「まぁ、これはAに限った話じゃないし、実際、これまでも他部署からの異動の対応は様々だったみたい。」
「……なら私は、自分のキャリアを信じる事にするわ。」
「そう不貞腐れるなよ。……とは言え、いくらAでも未経験の人間を急に現場に放り込めるほど、俺らの仕事は甘くない。そこでだ。」
黒沢がファイルから一枚の紙を取り出すと、机の上で滑らせるように私の前に持ってきた。
「なにこれ?収録番組のスケジュール表?」
「俺が担当している番組のな?特番時期とかだとまた少し違ったりするけど。」
朝から夜まで詰まりに詰まりまくった仕事は恐らくどの部署に行こうが変わらないだろうが、同じテレビ番組を作る仕事だというのに、ジャンルが違うだけでこうも違うのか。
「それで、これが?」
「うん、まあ、部長の発案なんだけど……A、お前は今日から俺の助手な。」
「は?助手?」
「正確には補佐役?俺が今担当している番組に一緒に付いてもらって、まあ、良きところで終了。あとはやりながら覚えてくってのが、Aに合ってるかなって。」
「…………マジ?」
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作者名:がうら仁歩 | 作成日時:2022年9月13日 19時