1. ページ1
1.
辺りを見渡すと武装した大勢の大人達がこちらを見ていた。
街灯も無い真夜中の山荘付近でこんなにも人がはっきり見えるのは、その人々を囲う様に無数のパトカーや救急車や消防車が煌々とライトを光らせているからか、なんて当たり前の事をこの騒然とした雰囲気の中、冷静に考える。
ふと寒気を感じ自分の服装に目を落とすと、白い半袖のブラウスにベージュのスラックス、泥まみれになったスニーカーは元はたしか白かったと思う。
夏とはいえこんな薄着で山の中にいるのだから寒いに決まってる。
自分の身体を抱きしめるように両手で摩っていると、後ろからふわっと肩に毛布を掛けられた。
その背後から感じる毛布とは違う温かな気配に振り返ると、私と同年代だろうか、キャップ帽子を被った若い男の人が心配そうに私の顔を見つめていた。
「行こか。ここやと寒いやろ。」
彼は優しい声でそう言い帽子を目深に被り直すと、私の右手を取り繋いだまま歩き出す。
握られた手を眺めながらついて歩いていると、すぐ近くに停められていたのか一台の黒塗りの車の前まで連れられる。
車の近くにいた中年の男性が後部座席のドアを開けると、彼は私を抱きかかえるようにして車に乗り込む。
彼の左側に座らせられると、さらに誰かが乗り込んできて、二人は私を挟むようにして座席に着いた。
「毛布、もう一枚持ってきたから。これ膝に掛けてあげて。」
「ありがとうございます!」
二人は慌ただしく毛布を広げ、私の体に隙間なくそれを掛ける。
どこかで聞いたその凛とした声に左側を向くと、綺麗な黒髪と整ったスーツ姿に相変わらずミスマッチな防弾チョッキを身に纏った、昔会った時と全然変わらない姿の彼女が私の腕や膝を摩っていた。
「では、出します。」
運転席には若い男性、助手席には先ほどの中年の男性。前方のパトカーに後続し、私達が乗る車もゆっくり動き出す。
69人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:がうら仁歩 | 作成日時:2022年9月13日 19時