【銀魂】桜に詠う

ファンタジー路線 ページ21

「ーーどうやら、お前の村も今日は月明かりの差す夜らしいな」






いつも道標に聞いていた詩が、・・この日は
聞こえなかった。けれど、俺の目の前には、
現れた大木と女の後ろ姿。

緩やかな風に身を任せ、桜を見上げるそいつ。






「今日は、とびきりいい空だよ」




寂しげな声音が、美しく響く。

彼女と同じように見上げた俺の視界が、
以前のようにピンクいっぱいに染まることは
もうなかった。


散りゆく桜は、ーーもうじき、終わりを迎える






「やっぱ、悲しいんだな」

「あぁ。ーーでも、少しだけ楽になった。
あんたのアドバイスのおかげだよ」




ニコリ。こちらに向けられた表情は、
・・言葉とは裏腹に、切なげに揺れていた。


ーー俺は無意識に、
・・・そいつの頭に手を伸ばしていた。





「無理に笑う必要ねーよ」



艶やかな髪は、思っていたより細くか弱い。
するりと指の間を通り抜け落ちていくそれに、
心臓をぎゅっと押し付けられるようだ。





「人間の生理現象、我慢してどうすんだよ。
せっかく表現できる機能がついてんのに、
使わなきゃもったいねーだろ？」




ーー"だから、泣けよ"



俺の言葉で楽になったのなら、なぜ前にも増して悲しそうに瞳を揺らすのか。

女ってのァ、複雑でわかりにくい生き物だ。






「ーーーありがとね、銀時」





ほら、まただ。・・言葉とは裏腹に、またしても表情は下がり、語尾は震える。







「何だよ。・・んなツラしやがって」





これだから刀ばっか振り回してきた侍って
生き物は。・・いくら敵をなぎ倒し、
恐れられていても、

ーーー女が悲しんでいる理由さえわからねェ。
気の利いた言葉の一つもかけられねェ。



こういう時は、どんな歴戦の侍でも、無力だ。








「ーーーこの桜の木は、なんで戦場に来たかったんだろうねェ」






ぽつり。こぼされた言葉。







「・・・労いにでも来たんじゃねーのか？」





この下に埋まるいくつもの報われねェモンを
労いに。ーー"お疲れ様"と。

一言誰かに言ってもらえりゃ救われる。




「桜ってのァ、それなりに神聖で高貴な力の
持ち主なのかもしれねェな。何たってテレポートできる」

「銀時・・、」






ファンタジー路線を走る趣味はねーんだが、
・・まいったな、こりゃ。

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