【銀魂】桜に詠う

言い聞かせるように ページ19

「・・それも、単純」



ぽつり、ぽつり。力ない言葉が、落とされる。
俺の耳に馴染みやすかったはずの声が、何だか
今日は、落ち着かねェ。







「来年まで、見られなくなるから」





ーーーあぁ、そうか。桜花の命は短い。
春先に数日咲き誇り、その後は青葉を広げる

散りゆくそれは、そろそろ勢いを失い、
緩やかになっていた。・・もうそんな時期か。
早いもんだ。





「たった365日だろ」

「十分長いじゃないか」


「寝てりゃすぐだ」

「侍だってのにやけにだらしないねェ」

「ほっとけ」





今日は、目が合わない。ーー今のそいつの瞳は
命を散らす桜だけを映している。





(・・気にくわねーな)




喋っているのに、Aの中にあるのは
今年の桜花の寿命だ。

花に嫉妬するなんざ、格好悪ィにもほどがある
じゃねーか。ーーいや、でも






(ある意味、都合はいいか)




目がこちらに向かないおかげで、その格好悪い
しかめ面をさらさずにすんだのだから。







「・・また、みんなすぐに忘れちまう」





桜が小さく舞い散る中で、綺麗な髪を揺らめかせるその姿は、一枚絵のようだ。

哀愁を漂わせるそれは、どこの天才画家が
描いたものなのだろうか。






「散り切れば、人はすぐに、その年の桜の美しさも、存在も、忘れてしまうんだろう？」





それが嫌なのさ、と。

いつ何時も桜のことを考えて生きている人が
一体この世界に何人いるのだろうか。

忘れてしまう。ーーアァ確かに。






(・・俺も、忘れちまうのかもな)




俺は、綺麗な風景を、頭のどこかに綺麗な形の
まま残しておけるような風情人じゃない。

そんな器用なことは、できない。



すぎたことは過去。見据えるべきは未来だ。







「ーーーならよ、・・来年の桜のことでも
考えてみりゃいいじゃねェか」


「来年？」


「そうだ。結局人間は、楽しいこと考えてりゃ
それで事足りるんだ。辛いことなんざ上書きできんだよ。脳みそってのァよくできてる」





生きてりゃァ、悲しいことなんざ数多ある。
悔しいこと、虚しいこと。山の如し。






(ーーー引きずっていたら、前に進めねぇ)





まるで、自分に言い聞かせるように。


こいつの世界に、俺の考えを押し付けるような
モンだとわかっちゃいるが、どうにも口が
止まらなかったのだ。



目を丸く見開いたAは、「確かに」と
薄く笑いを浮かべた。

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