たまには ページ14
「ーーーさくらばな陽に泡立つを見守りゐるこの冥き遊星に人と生れて」
詩吟など興味のない俺の耳には馴染みのない詩が、あの声に乗せて運ばれる。
雨音に紛れて聞こえるそれは、距離を縮めるたびに大きくなっていて。
ーーー今日もそいつがいることに、安堵した。
詠声がやみ、綺麗な笑顔が俺を迎える。
「あら、また来たのかい」
「悪ィかよ」
「いや？ーーただ、大丈夫なのかと思ってね」
大丈夫か、というのは、俺の立場を労っての
発言であるか。・・戦場に参加してる身でありながら、1人で見晴らしのいい荒野を彷徨っていいのか、と。
桜の木に近づけば、最早傘は要らなかった。
「・・・この雨じゃァ、出陣しても上手く
立ち回れねーよ。今日は休戦だ」
「それならいいんだけど」
ホッとしたように笑ったAに近づいて。
ーー同時に、桜の花びらが風に舞う。
上を見上げれば、いつものように、
月明かりが俺たちを照らす。
「・・雨、降らねーんだな」
「私の村は、素敵な月夜だよ」
こっちは土砂降りだ、と笑うそいつ。
そうか、Aの村は、天気がいいのか。
なら、こいつにとっちゃ、この味気ない一色の
天井は、さぞかしつまらねーモンなんだろう。
持ってきた2人分の傘を無造作に放る。
「なあ、前から気になってたんだが」
「ん？」
「ーーーお前、いつも詠ってんな」
「・・・あぁ、」
桜にちなんだ綺麗な詩を綺麗な声に乗せて。
それは、俺をここに導いてくれる
道標のようなもので。
「あぁやって、桜に力を送るのさ」
「詩で、か？」
「テレポートにもエネルギーがいるのさ。
私はそれを手伝ってるんだよ」
意味不明。こいつには一体何の力があるのやら
聞くたびに、ーー明らかになるたびに呆れてしまうこいつのトンデモ経歴は、それでもひどく
俺を惹きつける。
いつの間にか、もっと知りたいと思うのは、
もしかすると、・・Aの詩が桜だけでなく
俺にも作用しているせいかもしれない。
「ーーー綺麗な声だ」
「・・・え？」
「詠う声」
ーーー次は会えるかわからない。・・明日は
出陣することになるだろう。
当然死ぬ気はねーが、そんな気合は戦場じゃ
無意味だ。・・・いつ何時、最悪な事態になるのかわからない。
たまには、素直になってみるのもいいだろ？
「ーーー・・ありがと」
彼女は、桜色の頬を濃くして呟いた
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シュシュ☆☆(プロフ) - ピピコさん» ありがとうございます！もったいないお言葉です！最後まで目を通してくださり、ありがとうございました！ (2017年3月27日 18時) (
レス) id: 61b42241f1 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ - とても綺麗なお話ですごく好きです！タイトルも素敵で全体的に私的ドストライクでした！これからも頑張ってください！ (2017年3月26日 21時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
シュシュ☆☆(プロフ) - 紫蘭さん» ありがとうございます！しっとりした恋が書きたくて衝動的に作った作品でした！最後まで読んでくださりありがとうございました！ (2017年3月2日 0時) (レス) id: 61b42241f1 (このIDを非表示/違反報告)
紫蘭(プロフ) - 完結おめでとうございます！儚い恋もいずれは、叶うんですね！こんな恋もいいなと思いました。次回作、頑張って下さい！ (2017年3月1日 19時) (レス) id: 1847792d84 (このIDを非表示/違反報告)
シュシュ☆☆(プロフ) - ミイナさん» いつも応援ありがとうございます！辰馬オチ、絶対いつかは書きたい作品です。完成度はわかりませんが、ネタを探してみます！気長にお待ちいただけると嬉しいです！ (2017年3月1日 11時) (レス) id: 61b42241f1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：シュシュ
| 作者ホームページ：
作成日時：2017年2月22日 0時
