そういう関係 3-江口拓也-

過去と今 ページ15

江「ぜっったい家から出ないでよ！！？」

「わあかったっての、早く行かないと遅刻するよ」




過保護が過ぎる、とは思うものの、少しは助けられている今日この頃

あの日から既に1ヶ月は経過していて、アフレコとささらじ以外は本当に何もない日々


去年までなら、声優笹野Aとして歌手活動を始めた11月に向けて打ち合わせしたりと、何かと忙しかったのだが

大阪でのイベントも参加出来ず、XYZにも参加出来ず、生放送が出来る程気持ちが回復していないのは事実だった


ソファに腰掛け、思い出すのは過去とあのライブの日


どうしようもない理由で差別され、虐められ、集団行動が出来なくなって
何も素直に言えなくなった小・中学時代

流石に高校は行けと血の繋がりのない兄に言われ、通信制の高校へ言ったものの、年間行事には全く顔を出さず、歌い手にばかり執着して
そのうち声優として活動を始めた高校時代


全く同じ境遇の人なんて出逢ってないけど、似たような顔を持つ歌い手仲間が背中を押してくれたお陰で、声優として働けて、沢山の人に出会えて

何もかもが克服できたとは言えないけど、何を言われても、されても大丈夫だって変な自信があったのに




「ゆっくりでいい、かぁ……」




さぁの。を待ってくれている人がいることくらい分かってる
常に歌い手の第一線を走り続けている自覚はある

声優笹野Aありきの、さぁの。だったとしても、毎年ドームでライブをやっているのは私だけ


そんな私がたった1回の、しかもあんな小さなことで、いじめられっ子笹野Aに逆戻りしてしまったなんて、信じたくないのだ




「曲作ろ」




私が素直になれるのは歌の中だけだった

ひたすらに作って、歌って
そうでもしないと、心がパンクするから


この1ヶ月で、既に10曲ほど出来ていた
いつ発表できるかもわかんないのに


コメントを読めるようになったら、生放送くらいは解禁されるだろうか

開きかけた音楽ソフトを閉じて、YouTubeを開いた


13周年記念連続投稿のコメント、何ひとつとして目を通していなかった


どれにしようか、悩んだ末にGood dayを開いてみた


自分の声の裏、かすかに聞こえる拓也の声に落ち着いて、無意識の間に握り締めていた手をマウスに伸ばした

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