こじらせ女子のオトナ社内恋愛2

83 ページ34

走り出して１人になれる場所に閉じ籠りたい気持ちが込み上がるのに、大人でいたい私は足早に立ち去る事しか出来ない。




カツカツと鳴るヒールは憧れてた理想のデキる女の代名詞なのに私はそれに伴わない表情で。




ぎゅっと握った掌に包まれたUSBメモリ。
これは……下心なんだとあなたは言ったけれど、私はそれにどんな答えを出せばいいのか分かんない。




……しっかりしろ。
考えることは山ほどあっても仕事は待ってはくれない。
今は何も考えたくない。好きとか嫌いとかは重要であっても私はそれに対応できるスキルが無さすぎる。恋愛よりも仕事ばかりを優先してきた私に、完璧な答えなんか出るワケがないんだから。
……あぁ弱虫。逃げてばかりのこんな自分なんか大嫌いだ。








　
泣くもんか泣いてたまるか、なんて気合いを入れて無理やり仕事脳へと己を持っていこうにも、歩きながらさっきの着信を確認すれば履歴に残る相手の名前に……また眉は下がってしまう。





朝からテヒョン君に振り回されて、息つく間もなくユンギ君からの……それ。
私は仕事に集中したいのに許してくれないこの謎の連鎖はやっぱり神様の気まぐれなのなか何なのか。




……はぁ、と息を吐き出してパシっと自身の頬を叩き、折り返しの電話をして。
やがて繋がったその声を耳にしてしまえば無意識にぎゅっと目を瞑ってしまった。









　





　
JN｢……どうして電話、無視したの？｣







　


　
受話越しに聞こえた声色に何故か背筋が伸びる。




仕事の要件を告げられるのを願っていても開口一番で紡ぐその言葉は威圧的。この人はいろんな意味で酷いと思った。




少し前の私であれば、どんな内容であってもソクジン先輩からの電話なら舞い上がっていたのかな。
でも今は先輩と連絡を取ること自体に躊躇いというかトラウマみたいにびくついてしまうんだ。
……全ては自分のミスであるあの一通のメールから始まった。









　
｢…っすみません立て込んでいたので。急ぎの用ですか？｣



JN｢声、震えてる。…また泣いてたの？｣









　
仕事に関係のない全ては必要なくてそれを私に教えたのは先輩であり上司でもあるあなただった。









　
JN｢返事がないのは肯定していいってことだよね。
ふふっ……またそんな顔してる。顔上げて？｣









　
二重に聞こえた柔らかい声とその言葉に、何も言えずにハッとすれば社内の廊下の先で先輩は微笑んでいた。









　

84→←82

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す