門限やぶり [完結]

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ドアがもうすぐ閉まっちゃうな、今日はこの電車には乗らないんだろうなってほんの少し肩を落として俯いて。







　




ぷしゅー、とドアが閉まるのと同時にぴょんっと駆け込んで
間に合った、と小さく呟いたのは……あの人だった。









　

初めて聞いた声に何だかすっごく感動して。
それだけでも充分だったのにとんっと肩に触れてしまったこの距離と私に向けられたすみません、の一言にびくんっと肩が跳ね上がった。








　

思わず見上げてしまえば初めて彼と目が合って。
満員のこの空間で近すぎるぐらいの全部に心が整わなくて無意識に唇を噛んでいて。





……静まれっ……私の心臓っ、なんて思いながらも頬に熱は集まるばかりで堪えきれなくなった私はふいっと顔を逸らしてしまった。









　


……うわーん……私のばかっ……なにが｢……いえ、｣だばかっ…
小柄な私の見た目以上に小さな声はこの人に聞こえたのかも分からない。




　

素っ気ない私の全部に呆れたのかスマホを弄る姿を見てしまえば、無意識に抱きしめていたバッグを更にぎゅうっと抱きしめた。









揺れる車内で私の周りは人、人、人。
掴まるものがないから必死に両足で堪えていてもカーブに差し掛かってしまえば、沢山の人にぶつかりながらぎゅうぎゅうの揉みくちゃにされる私。






どんっとドアと人の間に挟まれてそれが少し苦しくてこの状態はいつまで続くんだろう、と思って。






非力で小さな私なんか気にも留めないこの感じ。今に限らず普段から私はいつだって空気みたい。
世間知らずで全部に疎くて、そんな私は時代に乗り遅れていて……誰にも必要とされてなくて。






揉みくちゃになるのが嫌な訳じゃない。
けど、何故か今になって急に世界で１人ぼっちになったような感覚になって……私……酔ったのかな、病んでるのかな、ってハッとするも相変わらず乗客たちの背中は私をドアに押し付ける。





　






　

そんな時、くんっと腕が引っ張られて苦しかったそれから導くように私のカラダが引き寄せられて。









ここなら、大丈夫だよ。









素っ気ない態度をとってしまったり
世の中に、世間に必要とされていない私なのに
その人はふわりと微笑んで簡単そうに、苦しかった空間から私を引っ張り上げてくれた。






　
ただの親切心だろうし彼には造作もない事かもしれないその行動、掴まれた腕。








また胸がぎゅうっと締め付けられた。









　
　

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