仕方がない ページ30
急いでまた口を抑えたが完全に手遅れだった。
彼は目を細めて訝しげに私を見ている。
さっきまで不審者だった奴に
怪しい者扱いされているというこの状況は
非常に癪だが、仕方がないだろう。
小柄な体、白い肌。
細めの瞳に派手な髪色。
だって彼は、あの「イ・ジフン」なのだから。
…いや、今これかなりやばくないか！？
どうしよう接触禁止なのに声かけちゃったし
がっつり目が合ってる！やばい！
何が不審者だよ私馬鹿なの！？
自分の家の前に座り込んで何が悪いんだよ！！
『に、逃げたい…』
思わず漏れた本音をききとったのだろう、
イ・ジフンは眉を寄せて私を睨んだ後、
壁にもたれながら立ち上がった。
が、彼の体調もだいぶやばいようで
ぐらぐら体が揺れている。
支えたかったが安易に手を出すことも出来ず
挙動不審な私が何故ここにいるのかなど
気にする余裕もないようで、
彼はずるずるとドアに向かっていった。
よし、とりあえず見届けよう。
本当に具合悪そうだし。
そして何事もなかったことにしよう。
イ・ジフンのことが心配ではあるが
一番心配なのは私が無職を避けられるか
どうかである、
…そのはずなのに。
『危ない！』
足の力が抜けたのか倒れこんだイ・ジフンを
私は半ば反射で抱きとめていた。
男の人に耐性はないのでどきりと心臓が
跳ねたが、それどころではない。
『あー！！！』
イ・ジフンの体がびくりと揺れた。
近くだから余計彼の激しい呼吸が感じられる。
ああもう、仕方ないな。
そう、もう仕方がないんだ。
彼はこのドアを開けても1人きり。
ひとりぼっちの寂しさは
私が一番分かってるんだから。
『もういいよ看病すれば良いんでしょ！
ほら私に体重かけて良いから部屋入ろ！』
イ・ジフンはもう正常な判断力を
失っているようで、素直に私に支えられて
部屋のベッドまで運ばれてくれた。
どのベッドか分からなかったのだが、
以前楽譜が散らばっていた部屋を開けたら
手前のベッドに倒れ込んでいたので
恐らくそこで良いのだろう。
『はぁ〜…』
部屋を出て座り込んでしまった。
やっちゃった。
無闇に接触するのは辞めようと
決意したばかりなのに。
でも私だって、ステージの上で輝く彼らを
支える1人。
遅くまで働く彼を放っておくことなんて
出来なかったのだ。
…うん、ここまで来たんだ、
ちゃんと看病してあげよう。
私は腰を上げた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2538人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆずテム(プロフ) - monoさん» monoさんお久しぶりです、またコメント頂けて嬉しいです。本当に嬉しいお言葉ありがとうございます！ご期待におこたえできるよう頑張りますのでこれからもよろしくお願いします！ (2018年3月1日 9時) (
レス) id: 9c2c49a1ac (このIDを非表示/違反報告)
ゆずテム(プロフ) - リオナさん» そうやって言っていただけてこちらこそ本当に本当に嬉しいです！お待たせしてすみませんでした。ありがとうございます頑張ります！ (2018年3月1日 9時) (レス) id: 9c2c49a1ac (このIDを非表示/違反報告)
mono(プロフ) - おかえりなさい…！！(；ω；)「小人の家政婦」が更新されましたと書いてあるのを見て本当に嬉しかったです。そして更新再開ありがとうございます！難しいことは言えませんが、1番に私はゆずテムさんが書くこの作品が大好きです！！これからも更新楽しみに待ってます！ (2018年3月1日 8時) (レス) id: 8b60b44980 (このIDを非表示/違反報告)
リオナ(プロフ) - ずっと待ってました！更新再開してくれてありがとうございます！とても嬉しいです！ほんとに好きな話なのでこれから楽しみです。応援してます。 (2018年3月1日 0時) (レス) id: cf12ec0e18 (このIDを非表示/違反報告)
ゆずテム(プロフ) - さんそさん» お礼を言いたいのはこちらの方です…ありがとうございます！！！精一杯頑張りますのでよろしくおねがいします！！！ (2018年2月28日 22時) (レス) id: 9c2c49a1ac (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆずテム
| 作成日時：2017年7月24日 17時
