ヘタレとバカ

夜更かし ページ8

時刻は午後8時17分。
今の僕の気分を率直に言えば、眠い。凄く眠い。
最近は一日の仕事量が増えて、自然と夜更かしの回数も増えていく。幸い今日は早めに帰れそうだけど、数日に渡って最低限の睡眠しかとっていなかったために蓄積された眠気が、僕の顔にもハッキリと表れている。電源が落されたパソコンの真っ暗な液晶画面を見ると、いつも通り間抜けな僕の顔。黒縁の眼鏡の奥に、うっすらと隈ができている。

またせーくんに怒られちゃうかな。怒ったせーくんは怖いけど、彼と話せるならそれもいいかな。とにかく今日は早く寝て、出来る限り休まなきゃ。なんて考えていると、

「柳さん、帰らないんですか？」

噂をすれば何とやらで、せーくんが話しかけてきてくれた。嬉しさに背筋をぴっと伸ばし、帰る！と言うと、彼は眉を下げて、控えめにクスリと笑った。
普段は見ることのないその表情に心臓が高鳴る。ああ、なんて綺麗に笑うんだろう。
見惚れていると、彼はほんの少し視線を落として訊ねてきた。

「柳さん、この後用事とかなければ駅前の居酒屋に行きませんか」
「居酒屋？」

予想外の質問に若干戸惑うも、この機会を逃す訳にもいかない。
「い、いいの…？」
「はい、柳さんが良ければ…」
じゃあ、と緩みきった情けない顔で答える。まさかせーくんから誘ってくれるとは思いもしなかった。眠気も吹っ飛ぶくらい気分が上がる。
いそいそと退社の準備をしていると、せーくんは何か重大なことに気が付いたように付け足した。

「…柳さん」
「え、あ、なに…？」
「また夜更かししましたね？」

…バレちゃった

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