第98話 噛み締めて ページ7
「大人二名様分のチケットになります｡ぜひお楽しみください」
ありがとうございます､と答えながら従業員さんから渡されたのはペンギンやイルカ､クラゲなど海を代表する生き物がプリントされたチケット｡
「マッッジで水族館久しぶりやなぁ」
「何から見ようかなぁ」
「順々に回ってこか」
なんて話しながら一緒に入り口まで歩く｡
入館ゲートの横にはチケットと同じような可愛らしい看板｡
文字がデカデカとデザインされている看板もあった｡
“バレンタインカップル限定!ペンギンペアリングキーホルダーを入場者カップルにプレゼント!”
こんなイベント知らない……なんてことはない!!
そう､私が今日この水族館をリクエストした理由｡それはこのバレンタインイベントがあったからなのだ!
折角のバレンタイン｡色々ドッキリ……じゃなくてサプライズはしたいし!
篠原さんの驚く顔を見たいのだ!
にやり､と口が綻びそうになるのを我慢して私は篠原さんの顔を覗く｡
「……ふーん??」
不意打ちもあり､ほんのり顔の赤い篠原さんだが､私と視線が合うとなるほどね､と言うように微笑んだ｡
「どうりでこの水族館にしたかったわけやわ｡……A?俺のために選んでくれたん?」
なんなん???!!篠原さんのこの余裕はなんなん????!!!
恥ずかしくなってきた……ちょっと照れた篠原さん見れたのはよかったけど｡
よかったけど!!!
「もっと驚いてくれてもよくないですか?!」
「びっくりしたっすよ｡でもAがこうやって俺のこと思って行きたい場所考えてくれた､っていう嬉しさが勝った」
「嬉しいなら……まぁいいですけど」
「うわ永久保存したいその笑顔」
「もう!早く行きましょ!!」
自分の今の顔は想像したくもないほど赤いのだろう｡そう確信出来るほど恥ずかしい｡
……けど､やっぱり篠原さんの言葉は私には宝物で｡
ケラケラと笑う篠原さんに､なんだかおかしくなって､私も笑う｡
「大人二人､お願いします」
「はい!承りました｡カップル様ですね､こちら限定キーホルダーになります」
チケットの半券と交換で渡されたのは包装された､二つの色違いの皇帝ペンギンのキーホルダー。
ゲートを抜け､歩きながら篠原さんはスマホに､私はバッグにキーホルダーをつけた｡
「それじゃあ行きましょか!」
小さな幸せを噛み締めて､私は篠原さんとまた手を繋ぐ｡
その時､背後から声が響いた｡
「っえ?!
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作者名：アンバ | 作者ホームページ：ないと思ったか！……ないんですよねぇ
作成日時：2022年7月23日 17時
