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『年に1度会えたような気がする母との記憶が
これだと思うと、少し、寂しくて…

自分が未熟なことも悔しけど
なんだか、母の事を忘れてしまったみたいに感じて…


急に、怖くなって…』


返事もないのに話し続けてしまう。
さっき引っ込んだ感情がぶり返して止まらない。

こうやって誰かに寄りかからないと
崩れてしまいそうになる自分が情けない。

甘やかされてきた性分にまた嫌気がさしていく。


『でも、なんて事ないんです…
本当はもう大丈夫なので、何も気にしないでくだ…』



「お前から聞いく母親は、もっと違うと思ってた」


『え?』


私から…?

記憶にないけど、
小さい時に何か言ってたのかな。


「もっと会ったばっかのガキの時。

出張多くて一緒に居られねぇって寂しそうにしてたけど
本とか形に残るものを貰った時は見せびらかされたし。

Aが怪我したり泣いたりしたら
“怖くてもよく頑張ったね”って励ましてくれるって
嬉しそうに言ってた。

直接、会った事はねぇけど
俺には無理な期待を娘に抱くような人柄には
思えなかったけどな」



『うわ、私そんな事してたんですね!?どうもその節は
ご迷惑を……』そう言おうとした口が歪んで嗚咽が漏れた。



『っ…私も、そう思います。

そうなんですよ。 お母さん。

私のこと、いつも優しく抱きしめてくれて、
昔から周りより小さい私が心配で仕方ないって、
仕事に行く前はいつも泣いていたんです。

とっても心強い人なのにそんなことで涙を流すなんて、
変なのって、小さい頃は笑って、私がお母さんを宥めてたっけ…

でも、それだけ心が温かい人なんです。
お父さんに負けないくらい、泣き虫な人なんです』


「Aは話に聞く母親にそっくりだな。

俺に初めて会った時も怖気付くこともなければ、
悲しいこと吹き飛ばすようにバカみたいに笑ってくれて。

そんなお前を否定するなんてこと、誰もしねぇよ」


『……ありがとうっ、ございます』


抑えても気持ちがポロポロと落ちて
しばらく経っても止まらないので

居た堪れなかった私は
こんな日照りでもまだ冷たい手桶の水に手を突っ込んで
本日二度目の締まりのない顔を洗い流した。

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作者名:graybear | 作成日時:2024年1月11日 21時

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