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父を送り出した後は緩やかだった
掃除や夜ご飯の下準備をしていると
お仏壇の線香が消えたので仏膳を一旦下げ、
冷蔵庫に移し変えた。
一通りやることを終えると時刻は10:00。
なんだか眠気で体が重くなった。
紅茶を淹れて一息ついたらお墓前りに行こうかと
茶葉を蒸らしているところで私の意識は微睡へと手放され
気だるい湿度と熱が舞い込む窓際で見たのは
ーーーここで冒頭の結びへ戻る。
『12時過ぎ、か』
いつもならとっくにお墓前りを終わらせて
お仏壇のお供物か冷麦でお昼を済ませている時間帯だ。
『サボっちゃった』
いや、サボりでは断じてない
睡魔なんだし不可抗力とでも言おう。
だからと言って、今 この日照りで外出するのは…
『さっきの夢、
お母さん…なんて言ってたんだろう』
墓石に顔を突き合わせても故人の声が聞こえるわけでも
問ただして答えが返ってくるわけでもないのに
『行く意味なんて、あるのかな』
これはお盆を規則正しく迎えられなかった私へ
母からの戒めなのか
はたまた、この時期の定番ソングでよく耳にする
“夏の魔物”ってやつがイタズラして
疲れている私に追い打ちを掛けているのか。
色んな角度から現状を捉えてみても
今の私では、ため息一つで思考を曇らせるばかりで
どうにも体を動かせずにいた。
.
蒸らしすぎて渋みが視界でも捉えられるくらいの
色濃いぬるま湯の匂いは更に私の脱力を加速させる。
先ほど吐いて出た言葉を
もしもお母さんが聞いていたのなら?
あの元気が取り柄の笑顔は
どんな変化を遂げるのだろう
『そんなことも知らない癖に…』
答えのない問は更に増えていく
『雄弁でもない、強くもなりきれない、
好きな人1人を見つけることすらできていない…』
きっと今の私は向き合えない。
『こんな私じゃ、なれないよ…
お母さんみたいに…!』
ピンポーン
『……』
空気の読めない来客を告げる音色に
昂る感情を息と一緒に飲み込んだ
.
「よぉ…どうしたんだよ」
『それはこちらのセリフです』
出る気はなかった。
泣き出した重い瞼を持ち上げることすらできず
誰であろうと、玄関先で平静を装うことは
できないと判断したからだ。
『近所迷惑なので静かに呼んでください
イザナさん』
インターホンも扉も壊れそうな音を立て始めた時には
さっきまでと違う意味で涙が込み上げてきて
私はたまらず飛び起きるに至ったのだ。
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作者名:graybear | 作成日時:2024年1月11日 21時