世話の焼ける人。【国木田独歩】

12看病 ページ13

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｢お粥作ってきました。食べれますか｣

｢ん…｣

此処はAの部屋。相変わらず散らかっていて汚い。いつもなら｢普段から片付けしないからこんなことに＿＿｣と鬼の形相で叱ってくる国木田も、今は天使のように優しい。

Aはゆっくりと起き上がる。

｢……くにきだ、あーんして｣

｢なっ！｣

いきなりのその言葉に、度肝を抜かれる。そんな恥ずかしいこと、出来るはずがない。然しAさんが巫山戯ている様子はない。

自分では食べれないのだろう。

｢…分かりました。………あ、あーん｣

覚悟を決め、スプーンを彼女の口を持っていく。すると彼女はぱくりと粥を食べ、飲み込んだ。一応、食欲はあるようだ。

そして粥を完食し、彼女を寝かせる。その際、何か欲しいものはあるかと尋ねた。

｢……あいす｣

｢わかりました。では買ってきます｣

そう云って玄関に向かおうとしたとき、Aさんに袖を掴まれた。

｢……行かないで、くにきだ｣

｢し、然し…｣

余りの可愛さに心臓がきゅん、と鳴る音が聞こえた(気がする)。これは俺の理性が試されている、のか…？

｢やだ。寂しい、くにきだ｣

｢…分かりました、此処に居ます｣

｢ほんと？｣

｢ほんとです｣

だから安心して下さい。そう云うと、彼女はへら、と笑顔を浮かべたあと寝落ちてしまった。スー、スーと規則正しい寝息を立てる彼女に安心し、思わず手を握る。


意外と小さなその手は、とても暖かかった。

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