028 恋人 ページ29
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｢待たせちゃってごめんね、ジス｣
久しぶりの浴衣の着付けに随分時間が掛かってしまった挙句、
慣れない下駄で上手く歩けない私のために
ジスは家まで迎えに来てくれた。
私を見るやいなやジスは口に手を当ててワァ…と声を漏らしている。
｢ジス、浴衣似合うね。首の辺りとか色っぽい｣
｢やめてよそんな変態みたいなこというの、
Aの浴衣姿初めて見た、すっごい綺麗……｣
あまりにも褒めてくるものだから流石に恥ずかしくて、
遅れた分際にも関わらず早く行こう、と急かす。
こういう一言一言が女の子から好かれるって自覚、
ジスには無いのだろうか。
…
お祭り会場に着くと、見渡す限り人ばかり。
押し寄せる人波に下駄を踏み外せば怪我に繋がり兼ねない。
気をつけて歩かなきゃ、と慎重に歩いていると
ジスは静かに手を握ってくれた。
｢危ないから、ちゃんと握っててよ｣
不意にもきゅん、とした。
ジスは本当にジェントルマンだ、神様の子。
私の食べたいもの、やりたいことを
嫌な顔ひとつせず一緒にやってくれるジス。
今年の夏はこの笑顔のおかげで全てが楽しい。
｢なんかこうしてるとさ、恋人みたいだよね｣
｢それ前の電話の時も言ってたよ………のにね｣
｢ん？｣
｢なんでもないよ｣
最後の言葉が人混みのせいで掻き消されて上手く聞こえなかった。
あと10分で花火大会が始まる。今年の花火は6000発らしい。
｢ねえ、ジスあっちの海の方で見ようよ！｣
｢わかった、って怪我するよゆっくり歩いて｣
｢ふふ、もしかしてジスって心配性？｣
そう言ってからかうとジスは私のおでこに
優しすぎるほどのデコピンをお見舞した
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作者名：malolo | 作成日時：2021年12月16日 13時
