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くんくん、と鼻を動かすも何も匂いはしないみたいで、頭を横に振る。
その後、ハッとした表情でドアに鍵を閉めた。そして小声でこう言った。
「 ………まさかお前Ωじゃないだろうな 」
ヒョンの鋭い眼差しが突き刺さる。怒ってると言うよりは、真剣な目をしていた。
「 その、まさかだったらどうする？ヒョンは俺をこのグループから辞めさせるの？ 」
「 ……いや、…俺、も、だから。 」
「 へ…？ 」
「 Ωって言っても、フェロモンの病気で、全然機能してないんだ。だからほぼβなんだけど 」
「 ……ねえ、ほんと…？ 」
同じ血液型が同じグループにいるなんて、有り得ない話だと思ってた。ああほんとに、ヒョンはいつも僕を助けてくれる。
「 薬がね…なくなっちゃったの、 」
「 どういうこと？ 」
「 そのケースに入れて置いたんだけど、朝起きたら全部なくて。」
「 誰かに盗まれたってことか 」
「 信じたくないけど……そういうことだよね。それで僕、今日ヒートになる予定日で…… 」
「 は？！それなら休まなきゃ！！ 」
「 今日の撮影は休めないでしょ… 」
「 お前最悪の事態だってあるんだぞ。俺がずっとついていれるわけじゃないし… 」
「 1時間後に親が薬を持ってくる…だからそれまで、お願い…仕事は休みたくない 」
「 ……できる限りは、一緒に居よう 」
納得してはないだろうが、仕方ない、という顔で承諾してくれた。
あれだけのことを乗り越えてやっと仕事が出来るようになったのに、それを休むなんて僕にはできない。
例え、倒れてしまっても、倒れるまでは出来る。
「 でもダウォナが倒れても俺お前を持って走れない 」
「 そこは本気出してよ 」
「 筋肉の塊が何言ってるの？？ 」
インソンヒョン貧弱だから頼りないな。
そう思いながらも、ずっと表情が笑顔だった。気持ちがスっと軽くなった。人に話すだけでこんなに違うんだと、思い知った。
「 じゃあ移動しますよー 」
マネージャーに言われて車に乗る。インソンヒョンがさっと手を繋いでくれて、一緒の車に乗ることが出来た。
「 大丈夫？しんどくない？ 」
「 大丈夫。肩借りてもいい？ 」
「 ふふ、いいよ 」
ヒョンの肩に頭を乗せて、そのまま目を瞑る。
起きたときには今日が終わってればいいのに。このまま、ずっと、薬が無くても幸せな世界でいればいいのに。
この世界に僕たち2人しかいなかったらいいのに。
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作者名：凪緩 | 作成日時：2022年8月21日 8時
