また明日 ページ7
「………」
「A」
「な、なにっ…!」
「何故その様な反応をする」
「い、言わなくてもわかるでしょう!?」
Aは矢琶羽の部屋の隅で膝を抱えて蹲りながら声を荒らげた。
その様子を矢琶羽は呆れながら眺めている。
何故このようなことになったのか
寝ぼけていたAは矢琶羽の目の前で子供のように大泣きをしたあと
嫌いにならないで、などと恥ずかしいことを言い、挙句の果てにはそのまま背中にしがみついたのだ。
夢現から抜け出したあとに気づいたらそうなっていた。
恥ずかしさのあまり顔から火が吹き出しそうになり、矢琶羽と顔を合わせることが出来ずにこうして壁の方を向き蹲っている、とそういう訳だった。
Aは思い出しては顔を赤らめて忘れ、また思い出しては顔を赤らめるのを繰り返していた。
「そろそろ日が暮れる。また怒られる前に帰るがよい」
鴉が飛んでいる橙色に染った空を見上げては矢琶羽は声をかけた。
Aは素行が悪く、家の門限を破って毎度と怒られている。
だから今日こそはと促したのだが、Aは更に縮こまった。
「……帰りたく、ない…。…帰ったら、また…」
きっと、また許嫁の話をされる。
何度嫌だと言っても、何度も新しい許嫁を見つけてくる。
金持ちの娘を欲しがる男など山ほどいるのだから候補がいなくなるわけが無い。
いい加減、うんざりだった。
「…A、1週間後に祭りが開かれるのは知っておるな」
「え…?…うん…。去年は一緒に行けなかったけど、小さい時はよく一緒に行ってたもん」
「今年は儂と一緒に行かぬか?」
「え……」
聞き間違いじゃない…?矢琶羽と一緒にお祭りに行けるの…?
正直あのお祭りはそんなに好きじゃない。
簡単に言ってしまえば、死者が還ってくるのを祝う祭りなのだ。
良い事なのだろうが、そういう霊的なものは凄く苦手である。
でも、矢琶羽と一緒なら…
「い、…行く…」
「うむ。…しかし、今日はもう帰るが良い。
また外出禁止を言い渡されては祭りも行けぬ」
「……わかった…」
不満そうに渋々Aは立ち上がり、矢琶羽に視線を向けた。
「…じゃあね…、矢琶羽…」
もう会えなくなるかのような悲しげな顔。
「その様な顔をしなくとも、明日また来ればよかろう」
「……」
Aは驚いたかのようにぱちぱちと瞬きをする。
もう来るなと悪態をつく彼が、来てもいい、なんてちゃんと口にして言ってくれたのはいつぶりだろうか。
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作者名:aaa | 作成日時:2022年8月31日 10時