拗 ページ6
「…んん…、やは、ば……」
後ろからの眠そうな声。
矢琶羽が振り向いてみると、起きているのか寝ているのか分からないような、夢現の状態のAが微かに目を開けていた。
漆色の睫毛がゆっくりと揺れる。
しかし、Aは直ぐに着物の裾で顔を隠してしまった
「……やはば…、……に…、ないで…」
顔を隠しながらボソボソと言うものだから、何を言っているのかわからない。
普段ならば"聞こえぬわ"と苛立ちを見せているところ。
しかし先程中僧正と話したことを思い出す。
素直に、相手の気持ちによりそう…
「…すまぬが、よく聞こえぬ。A、そちらへ近づいても良いか」
「ッ…う、ん…」
Aは矢琶羽が丁寧に聞いてくれたことに驚きつつも
頷き、そっと顔を隠していた袖を降ろした
きっと随分長い間泣いていたのだろう
その証拠に目は赤く腫れていて、随分と悲しそうな顔だった。
そんな顔をするくらいなら、もうここへ来なければいいのに、というのが矢琶羽の本音だった。
こんな喧嘩、日常茶飯事なのだから、また辛い思いをするのでは、と考えることは容易だろう。
何故未だにAが自分の部屋にいるのか、不思議で仕方がなかった。
矢琶羽はそっと近づき、隣へ座ると目を瞑って耳をAの口元に寄せた。
「…きらいに…ならないで…」
「…嫌いに…?」
なれるのならば遠の昔になっている。
嫌いになれないのだからこうも関係を拗らせているのだ。
「…嫌いになる訳無かろう…」
Aは何も分かっていない。
Aがどれだけ矢琶羽の心を縛りつけているのかを。
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作者名:aaa | 作成日時:2022年8月31日 10時