煩瑣な 感情 ページ4
自室を出たあと、寺の庭をぼんやり見ながら考えていた。
一体何を間違えたのか。
どうすれば、あんな大喧嘩にならずに済んだのか。
そこにふと、足音が近づいてくる。
足音の主は、自分より階級の高い、老人の僧侶。中僧正だ。
「…まぁた喧嘩したのかい」
「…そんなところです」
「ハハッ、最近多いねぇ
昔から見ているけど、仲良かったのにね」
「…近頃あいつの言っていることが分からぬのです」
「ほう」
「…正しいと思うことを伝えてもA…、あいつはいつも、納得のいっていない様子。少々、疲れてしまいまして…」
「年頃の女、てのはそんなもんさ。
矢琶羽、御前もしかして…相手の気持ちを考えずに自分が正しいと思ったことを言ってはいないか?」
「…そうであってはならぬのですか」
「普段はそれでいいかもしれないが、女はそれじゃあ納得しない。
…増してやその女の相手は御前だからねぇ」
クスクスと笑う中僧正に、矢琶羽は小首を傾げた。
「相手が儂であると、何か問題があるのですか」
「問題…、問題ねぇ…。
…御前は少々真面目すぎる。
もう少し、相手に寄り添ってあげてもいいんじゃないかね、矢琶羽よ」
「…儂にはわかりませぬ…。あいつの気持ちなど…」
矢琶羽は悲しそうに視線を落とした。
何度考えても分からない。最近喧嘩が多い理由
Aを不機嫌にさせてしまう理由
相手が何を望んでいるのかが、全く分からなかった
「分からないなら、聞いてやればいい」
「聞く…?」
「わからないならわからないなりに、相手の気持ちを決めつけずに聞いてみればいいんだ。
どうして欲しいのかをな…」
「…"幼馴染ならわかってよ"。そう言われてしまったのですよ…」
「それはまた我儘な嬢ちゃんだな」
矢琶羽がその言葉を思い出し、少々苛立ちを覚えながら言うと、中僧正はケラケラと笑った。
「まぁ、御前はむかしっからあの子に振り回されていたからねぇ。御前に甘えているんだねぇ」
「…Aが…甘えている…?」
「あぁ。御前なら察してくれると、甘えているんだろうよ」
「………」
「まぁ、わからないもんはわからないからね。
とにかくここは、男である御前が折れてやれ。それと、素直になる事だ。
でないと、
遠くへ行ってしまうよ」
中僧正と別れたあとも
"遠くへ行ってしまうよ"
その言葉が、やけに耳に焼き付いていた。
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作者名:aaa | 作成日時:2022年8月31日 10時