言刃コトバ ページ3
「………」
「……。」
Aは相変わらず水まんじゅうを頬張り、矢琶羽は弓の手入れをする。
2人の沈黙の間は、あれからずっと。
もう数十分はこのままだった。
矢琶羽もAも、長いこと一緒にいるからか、どちらも素直ではない。
自分の気持ちは相手が汲み取ってくれると、どこか無意識に互いが甘えていた。
しかし沈黙の間に耐えきれなくなったAは、矢琶羽をちらりと見て声をかけた。
「ね、ねぇ、矢琶羽…」
「…なんじゃ」
いつもより低い声。明らかに不機嫌そう
不機嫌になりたいのは自分の方だと言うのに
「み……水まんじゅう…全部食べちゃうから」
これが今の精一杯。
お願い、止めて。
太るぞ、とか、やめた方が良いであろう、とか
言って。
止めてくれる、あなたの言葉が欲しい
Aはどきどきしながら待っていたが、矢琶羽にとって、余りにも抽象的すぎたその想いは届かず
「…好きにするが良い」
矢琶羽が止めてくれることは無かった
「……。」
Aは更に惨めな気持ちになっていく
矢琶羽は自分のやることに興味が無いのだと思った
何をされても許せるほど、興味が無いのだと
こんなにももどかしいのはきっと、矢琶羽のせい
「…どうして、止めてくれないの…」
「…うん?食べたいのであろう?」
矢琶羽に悪意は無い。ただ食べたいのなら好きにすればいいと本気で思っていた
矢琶羽にとって、女心というのは複雑だ
「……矢琶羽は……いつもそう…
私のこと…何も分かってない…」
Aに男心はわからない
男にとって、その台詞を言った相手が好きであれば好きなだけ、言刃(コトバ)が深く胸を抉るということを
「いい加減素直になったらどうじゃ。
A、お前はいつも自分の気持ちを相手に言わぬではないか」
「だから…!幼馴染ならわかってよ!!
矢琶羽だって、自分の気持ち言わない癖に!」
察して欲しい、感じて欲しい
今のAの乙女心はとても安易で、夢見がちなものだ
だから、矢琶羽にとっては訳がわからなかった
「チッ、意味のわからぬことを言いおって…。
騒々しく声を荒らげるでないわ!」
「荒らげてるのはそっちでしょう!?」
「………もうよい…」
青筋を浮かべた矢琶羽は席を立って部屋を出ようとした
「っ…どこ行くのよ…!」
「お前が帰る頃に戻ろうぞ」
「っ〜…!矢琶羽の、馬鹿ァ…!!」
Aの泣いたような声を背に、矢琶羽は自室を出た。
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作者名:aaa | 作成日時:2022年8月31日 10時