願 ページ17
その頃のAは、父から紹介されたお見合い相手に悩んでいた。
その相手は、Aよりも年上で、彼女が金持ちの娘だからと近づいてきた人よりもずっと
Aのことをちゃんと、見てくれる人だった。
けれど、どうしても矢琶羽が忘れられない
忘れたくない、とAは悩んだ末に、遂に決心する
また、あの場所で暮らそう
1人で頑張ろう
彼のいる場所なら、大丈夫
きっと、なにもかも上手くいくはずだから
しかし、行こうと決めていた日にちになる前に、Aに一通の手紙が届いた時
その決意は崩れ落ちた。
その内容とは、数ヶ月前までは元気であった矢琶羽が病で倒れてしまい
そして、息を引き取った、との内容だった。
Aはその事実に打ちのめされる。
嘘だと信じたかったが、この文を送ってくれた者は、確かに矢琶羽のいた寺の者だと言うことが伺える。
文に押されたあの寺独自の印がなによりの証であった。
矢琶羽はもうこの世界にはいない
その事実が、いつまでも、いつまでもAを苦しめた。
愛していたのに
お互いに衝突する場面はあったものの、それでも離れられなくて、嫌いになれなかった
「なんか…っ、言ってよ…」
Aは墓碑の前で毎年のように泣きわめいた
「A…何故お前は儂の元へ来る…」
矢琶羽は見るに堪えないその姿に、目を瞑った
眉根が顰められ、長いまつ毛が震える
それでもAの泣く声は、矢琶羽の耳を伝い脳味噌を、心を食い荒らした
愛した者の声ばかりが聞こえ、こちらの声は届かない
とはいえ聞こえてくるのはAの泣き声ばかりだ
何度もこの場所に居たくないと願った
でもきっと、この世から解放されるには、心残りを消さなくてはいけない。
「……A、お前は幸せになれ…」
心から望んでいたAの幸せ。
しかし…
「矢琶羽…ッ、やはば……ッ」
「…A…」
着物が汚れても気にとめず、崩れ落ちて自分の名を何度も呼ぶAが幸せになれる時がいつなのか
そもそも、本当に幸せになれるのか
矢琶羽はただただ、願うばかりだった
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作者名:aaa | 作成日時:2022年8月31日 10時