19話 君の為なら ページ20
「んー……」
暖かくて掴み所のないものが、オットーを優しく包んでいる。
それはどくどくと流れる血をせき止め、深い傷口を徐々に埋めていった。
「んんー？」
ゆっくりと瞼を上げたオットーは、Aと目があった。
治癒魔法を使ってくれたらしく、オットーの傷はほとんど塞がっている。
よく見れば、Aの傷も塞がっていた。
「あの、何があったんですか……？」
恐る恐る尋ねるオットーは、今の状況に大きな疑問を抱いている様子だ。
「目が覚めて、良かった。……あのね、あんまり時間はないけど、頑張って説明する、から、聞いて欲しい」
「時間がないって、どういう……」
オットーは嫌な予感を覚える。
「私はね、『傲慢』の器なんだって」
語りだしたAは、とんでもないことを言い出した。
「え……」
「それでね、魔女教の人に言われたんだ。私が『傲慢』の席を埋めないと、大切な人を皆殺しにするって」
オットーは、もう何がなんだか分からなかった。
それでも、現実は容赦なく目の前に飛び込んでくる。
「大事な人を皆殺し、なんて、私が『傲慢』になるしかないよね。だから、オットーが来るよりちょっと前に、魔女因子を取り込んだ。今は一時的に支配が弱まってるみたいだけど、じきに私は自我が無くなる」
「そんな、そんなの、死と同義じゃないですか」
「うん……。さっきは自我が暴走して、オットーにあんな怪我させちゃってごめん」
「あの攻撃は、Aさんだった……？」
「ごめん。でもこれがきっと一番良いよ。私一人が……」
「ふざけないでくださいよ！！」
「ぇ」
声を荒らげて怒鳴るオットーに、Aは少し怯えた表情を見せるが、彼は言葉を続ける。
「自分勝手すぎるんですよ！アンタ、自分の価値とか考えたことあるんですか！？」
「自分の価値は、ちゃんと分かってる。私は元々、いらないから捨てられた捨て子だし、私一人でみんなを、オットーを助けられるなら……」
しどろもどろになりながらも、Aは考えあってのことだと主張する。
「全然分かってないじゃないですか！ ……嫌ですよ、僕は、こんな別れ方」
後半は涙声になってしまっている。
「でも、私達は出会ったばかり。どうしてそこまでして、引き留めようとするの？」
Aの声も徐々に震えだす。
彼女も本当は思っているのだ。
まだ、ちゃんと生きていたいと。
「…………好きなんですよ、Aさんのことが！」
20話 存外呆気ないもので→←18話 そこに温もりは残らない ※原作よりかなり軽めの流血表現あり
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あくる(プロフ) - そんな事を言って頂けて、感謝感激です！ またちまちまと番外編を書こうと思っていますので、よろしくお願いします！ (11月1日 18時) (
レス) @page28 id: 64a42a1344 (このIDを非表示/違反報告)
作者くん！(プロフ) - 神ですね、この作品 (11月1日 17時) (レス) @page28 id: 36c939bd27 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：あくる | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/03240906ak1/
作成日時：2023年7月2日 1時
