第五十三話 ページ10
「いや、嘘をつかれれば終いだ。入力ミスが続けば二十四時間入れなくなる」
私の問いに答えた孝さん。
その表情は険しい。
「……では、あの人に突き止めてもらいましょう」
口を開いたのは耕一さんだった。
「あの人?」
「皆さんには言っていませんでしたが、人質の中に我々の協力者がいるんです」
どこまで用意周到なんだこの人は。
私の視線を感じ取ったのか、青鬼はこちらに顔を向ける。
「何か?」
「いえ……あなたにとって想定外なことは今後起こりうるのかなとふと思っただけです」
「あるでしょうね」
意外にも、即答だった。
病院を占拠するなんて大胆で緻密な計画を立て、実行しているのだからそこには自信があるのかと勝手に思っていた。
「現時点でもかなり、想定外なことばかりですよ」
「……そうなんですか?」
「ええ」
そこで会話は終わる。
「想定外」の詳細が少し気になったが、口には出さない。
「そろそろ配信の時間です。戻りましょう。あの人には私から連絡しておきます」
「了解」
私たちは揃ってエレベーターを後にした。
☆
あれから何の続報もないまま、今に至っている。
私の知らないところで話が進んでいるのなら、何も言うことはないのだが。
そんなことをぼんやりと考えていると、配信が始まった。
モニターは二画面に分かれ、右は青鬼、左には武蔵刑事が映っている。
武蔵刑事の画面はやたらと手ぶれしており、背景からもこれまでとは違う場所——しかも歩きながら配信をしていることが見て取れた。
『武蔵刑事、播磨院長を殺した犯人はわかりましたか?』
「院長が殺された……?」
『皆さんはまだ知らなかったですよね?』
私の独り言に呼応するかのように青鬼は言う。
『横浜北署の取調室で、何者かに銃で撃たれて殺されたんです。県警のセキュリティはどうなっているのでしょうか。……ですが、ご安心ください。これから武蔵刑事がその犯人を暴いてくれます』
青鬼のそんな言葉から始まる配信で暴かれたのは、神奈川県警本部長・備前武氏の罪。
どうやらここ、神奈川県は、県が誇る大病院だけでなく県警も――そして県知事も、真っ黒のようだ。
「落ち着いたら県外に引っ越しできないかな……」
私の独り言は、誰にも届かず消えていった。
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月乃派(プロフ) - そらえびさん» ありがとうございます!!!そらえびさんは神か??? (3月24日 20時) (レス) @page31 id: 67461f2801 (このIDを非表示/違反報告)
そらえび(プロフ) - 月乃派さん» リクエストありがとうございます!設定上全編通しては難しいのですが、少しだけ書きます! (3月24日 16時) (レス) id: 034df459ee (このIDを非表示/違反報告)
月乃派(プロフ) - あのー、できれば新航空占拠もやって欲しいです。時間めっちゃかかってもいいのでもし、よければ何卒お願いします🙇 (3月16日 23時) (レス) @page30 id: 67461f2801 (このIDを非表示/違反報告)
そらえび(プロフ) - minbutahuikbさん» ありがとうございます! (1月17日 15時) (レス) @page30 id: bea40306cd (このIDを非表示/違反報告)
minbutahuikb(プロフ) - 凄くおもしろかったです (1月16日 8時) (レス) @page30 id: 5e3e8dde78 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そらえび | 作成日時:2023年12月4日 22時