第四十七話 ページ4
桃鬼と灰鬼が、私のいる通路と交差する位置に現れる。
二人とも歩みは遅く、銃を構えていた。
SIS隊員の存在に気づいているのだろう。
しかし、相手はプロ。
鬼たちも銃の扱いについて訓練は受けたのだろうが、プロと撃ち合いをして勝てるわけがない。
二人が歩みを止め、後ろを振り向く。
まるでスローモーションのように見えるその様子に、私は飛び込んだ。
低く、重い銃声とともに放たれた弾が、私の肩の肉を抉った。
「Aちゃん?!」
「Aさん!!」
「う”……っ」
思ったより痛い。痛いというか熱い。
桃鬼、灰鬼の叫び声と、SIS隊員の状況報告の声が聞こえてくる。
「発砲により……っ、マル害一名負傷!繰り返す、マル害一名負傷!」
続く銃声と、隊員と鬼たちの声。
「完全に包囲されました!」
「動くな、銃を捨てろ!」
「捨てろ!」
「んのヤロ……!!」
「ダメ!!」
「二人をリネン室に閉じ込めておけ!」
「耕一?!……Aちゃんが、Aちゃんが撃たれた!」
誰が誰の声だか、もうわからなくなってくる。
出血はどのくらいなのだろう。
私、死ぬのだろうか。
わからない。
考えられない。
無事に戻ってきてくださいと囁いた、耕一さんの声と抱きしめられた時の感触だけが、いやにはっきりと思い出された。
「んのバカっ!アンタ、なんでこんなことを!」
ぼやけた思考に入ってきたのは、面を外した雄吾さんの声だ。
「……私、私は人、ですけど……」
「聞こえねーよ、もっとはっきり喋れよ!!」
同じく面をとった流星さんに怒鳴られる。
彼の目に涙が浮かんでるように見えるのは、気のせいだろうか。
「他の人といた時間より、鬼の皆さんと過ごす時間の方が……何だか心が軽くて……もやがかかるようなことがあっても、すぐにふわふわした感覚に戻って……」
「お前の言ってることがふわふわだよ!わけわかんねーから意識はっきりさせてちゃんと説明しろよ!」
「流星さんうるさい……ふっ、ふふっ」
母に厳しくしつけられるようになってから初めて、私は自然と笑えた気がする。
鬼たちから見れば、その笑顔は歪でしかたがなかったかもしれないけれど。
「先生……常陸先生?」
「は、はいっ」
私の肩を押さえつけている先生に、答えのわかりきった質問をする。
「これが……“楽しい”って感情……ですか……?」
そこで私は、意識を手放した。
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月乃派(プロフ) - そらえびさん» ありがとうございます!!!そらえびさんは神か??? (3月24日 20時) (レス) @page31 id: 67461f2801 (このIDを非表示/違反報告)
そらえび(プロフ) - 月乃派さん» リクエストありがとうございます!設定上全編通しては難しいのですが、少しだけ書きます! (3月24日 16時) (レス) id: 034df459ee (このIDを非表示/違反報告)
月乃派(プロフ) - あのー、できれば新航空占拠もやって欲しいです。時間めっちゃかかってもいいのでもし、よければ何卒お願いします🙇 (3月16日 23時) (レス) @page30 id: 67461f2801 (このIDを非表示/違反報告)
そらえび(プロフ) - minbutahuikbさん» ありがとうございます! (1月17日 15時) (レス) @page30 id: bea40306cd (このIDを非表示/違反報告)
minbutahuikb(プロフ) - 凄くおもしろかったです (1月16日 8時) (レス) @page30 id: 5e3e8dde78 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そらえび | 作成日時:2023年12月4日 22時