エピローグ ページ29
「私はあの言葉、反故になったと思ってませんからね」
「はいはい、わかってますよ」
神奈川県内の拘置所で、アクリル板越しに私は耕一さんと言葉を交わす。
「それよりこんなところに頻繁に来て、勉強は大丈夫なんですか?」
「もちろん。こう見えて私、優秀なので」
事件の後、保護観察処分を受けた私は休学していた高校を中退。
通信制の高校に編入し、行政の保護を受けつつ一人暮らしをしている。
もともと通信制高校は心の痛みを分かち合える人が多い傾向にあり、今なお賞賛と侮蔑の声が日本中から寄せられる私も、そこで出会った仲間たちとそれなりに楽しく日々を過ごせている。
「知事には会えてます?」
「いいえ。何度か面会の申し入れはしてるんですけどね」
「他の方たちは?」
かつての仲間について耕一さんが訊ねたからだろう。
刑務官が険しい目つきでこちらを見ているのが、視界の端にうつった。
「皆さん変わらず、お元気そうでしたよ。流星さんと雄吾さんなんか、お互いのことを根掘り葉掘り聞こうとするものだから刑務官の方から止められちゃいましたね」
常陸親子もその傾向にあるが、こちらはお互いの安否を聞けばそれ以上踏み込んでこないので止められたことはない。
会話がなくなったからか、贅沢な生活をしているはずもないのになおもつやつやと輝く髪を耕一さんはかき上げる。
「耕一さんのキューティクルってもしかして最強なんですか?」
「は?突然どうしたんですか」
「いやちょっと気になって。いつ見ても髪つやつやじゃないですか」
「……気にしたこともありませんでした」
「えーうらやましー」
口を尖らし言うと、耕一さんは屈託のない笑みを浮かべた。
「今度あげましょうか。切ったやつ」
「いや切った髪はさすがに要らないです。私の頭皮から生えてきてもらわないと」
「あははっ」
他愛ない話に興じていると、刑務官から制限時間が来たことを伝えられる。
「それではまた」
「はい、お元気で」
私も荷物をまとめて席を立つと、別の刑務官に呼び止められた。
「一つ、お聞きしたいことがあるのですが」
「何でしょう?」
「先ほど言っていた『あの言葉』とは何ですか?」
おそらく何かしらのよからぬ合言葉と誤解しているのだろう。
刑務官の顔はこわばっている。
私は自然と上がった口角をそのままに、「あの言葉」を一語一句違わず彼に伝えた。
「『俺と一緒に死んでください』ですよ」
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月乃派(プロフ) - そらえびさん» ありがとうございます!!!そらえびさんは神か??? (3月24日 20時) (レス) @page31 id: 67461f2801 (このIDを非表示/違反報告)
そらえび(プロフ) - 月乃派さん» リクエストありがとうございます!設定上全編通しては難しいのですが、少しだけ書きます! (3月24日 16時) (レス) id: 034df459ee (このIDを非表示/違反報告)
月乃派(プロフ) - あのー、できれば新航空占拠もやって欲しいです。時間めっちゃかかってもいいのでもし、よければ何卒お願いします🙇 (3月16日 23時) (レス) @page30 id: 67461f2801 (このIDを非表示/違反報告)
そらえび(プロフ) - minbutahuikbさん» ありがとうございます! (1月17日 15時) (レス) @page30 id: bea40306cd (このIDを非表示/違反報告)
minbutahuikb(プロフ) - 凄くおもしろかったです (1月16日 8時) (レス) @page30 id: 5e3e8dde78 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そらえび | 作成日時:2023年12月4日 22時