第六十九話 ページ26
私がずっと管理官の背後にいたのは、このためだ。
背中の銃を使わせないため。
今、その銃がゆっくりと武蔵刑事の手に渡る様子を見守る。
「解放しろ」
耕一さんに銃を向ける武蔵刑事の声は、怒りに震えていた。
「武蔵刑事、思い出しませんか？この状況を」
武蔵刑事はハッと息をのむ。
武蔵刑事の手が、がたがたと震え始めた。
思い出したのだろう。
彼らにとっての始まり、一年前のガススタンド立てこもり事件を。
「まさか……」
「ああ。お前が殺したのは、俺の父親だ」
武蔵刑事は明らかに狼狽し、視線が下に落ちる。
「親父は孤児だった俺たちを育ててくれた。金はなかったが、優しくて立派な父親だった。お前はそんな親父を！理由も聞かずに殺したんだ……！」
「じゃあ……あの時の人質は……」
「薩摩直美。ホテルオシマの元支配人！」
耕一さんは吐き捨てるようにその名前を呼んだ。
「親父は琴音の死の真相を聞き出すために……！」
「知ってたのか……？」
武蔵刑事は和泉管理官に聞く。
管理官は首を横に振った。
「あの時は……知らなかった。事件の後、調べて……」
「親父が事件を起こした動機が明らかになれば、ホテルオシマの件も掘り起こされる。そこでお前は、ある動画に注目した。因幡がネットにアップした動画だ！」
因幡はうろたえる。
「お前は親父の死を利用して再生数を稼いだ」
「あなたが……あの動画のせいで三郎は……」
二人から責められ、いまだ手を震わせてまともに銃を構えられない武蔵刑事を見、因幡はスマホを持つ手を下に降ろした。
「撮影を続けろ因幡ァ！！」
カチャリと、私は因幡に銃を向ける。
肩を震わせ、彼女はスマホを持ち直す。
撮影が続行されることを確認した耕一さんは、再び管理官の方へ顔を向けた。
「そしてお前は、ネットの世論に便乗した」
「あれは……あの時はああするしか……」
「それは、誰のためですか？」
私は訊ねる。
「同僚である武蔵刑事のため？それとも県警の面子のため？」
「……私個人としては、武蔵のため。でも……」
「備前本部長からの指示でもあった？」
「……ええ。あの時は、県警の面子のためだと思っていた。でもそれは、P2計画の発覚を防ぐためだったんでしょうね」
「そのせいで武蔵は正義の人になり、親父はただの犯罪者として扱われたんだ！」
響く耕一さんの怒号。
「武蔵。全てはお前から始まったんだよ。俺を鬼にしたのはお前なんだよ！！」
それは、何よりも悲痛な叫びだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 682人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
月乃派(プロフ) - そらえびさん» ありがとうございます！！！そらえびさんは神か？？？ (3月24日 20時) (
レス) @page31 id: 67461f2801 (このIDを非表示/違反報告)
そらえび(プロフ) - 月乃派さん» リクエストありがとうございます！設定上全編通しては難しいのですが、少しだけ書きます！ (3月24日 16時) (レス) id: 034df459ee (このIDを非表示/違反報告)
月乃派(プロフ) - あのー、できれば新航空占拠もやって欲しいです。時間めっちゃかかってもいいのでもし、よければ何卒お願いします🙇 (3月16日 23時) (レス) @page30 id: 67461f2801 (このIDを非表示/違反報告)
そらえび(プロフ) - minbutahuikbさん» ありがとうございます！ (1月17日 15時) (レス) @page30 id: bea40306cd (このIDを非表示/違反報告)
minbutahuikb(プロフ) - 凄くおもしろかったです (1月16日 8時) (レス) @page30 id: 5e3e8dde78 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：そらえび | 作成日時：2023年12月4日 22時
