第六十七話 ページ24
「お前全部……知っていたのか?」
「ええ……」
武蔵刑事は相当なショックを受けているようだった。
「だったら、どうして捜査を……」
「初めは……気づかなかった。ただ、指揮官として、人質を守るためには捜査を続けるしかなかった」
「和泉管理官は、私と同じです。愛する人を一番に考えていたはずです。でも、一億二千万人を選んだ」
口を挟んだのは耕一さんだ。
「私は、夫を愛する妻であると同時に、警察官です。この国の多くの人々の命を守らなければならない。それが私の正義です」
「その正義が!」
耕一さんが、怒りを、苦しみを露にして叫んだ。
「私たちから愛する人を奪ったんです」
耕一さんは一度冷凍庫に目をやり、再びスコープを覗いて言う。
「妹の琴音とは、小さい時からずっと一緒でした。何があっても絶対に守る。そう約束してたんです」
アンケートの締め切りまであと数分。
既に我々の勝利は確定したようなものだが、私はそれだけでは足りなかった。
「そもそも、最初からおかしいんですよ。和泉管理官、長門知事、そして、この計画に関わったすべての方々」
皆の視線が私に集まる。
それは、私がずっと抱えていた違和感だった。
知事が、母がこの配信を見ていることを信じて、私は語りかける。
「確かに、我が国のワクチン開発技術の発展は急務と言えます。ですが、わざわざ病院を新設して、内密に研究施設を作ってまでやる必要があったのですか?わが県には衛生研究所があります。県内でやらなくとも、国内を探せばバイオ研究を専門としている機関なんていくらでも見つかったはずです。ワクチン開発をするというならまずそこからでしょう!」
私は、手に持っていた銃をカメラに向けた。
「こういった施設を地域住民の承認なく建築することは都市計画法違反。人の死体を遺族の許可なく領得し、研究利用するのは死体遺棄罪や死体損壊罪、また書類を捏造するのは虚偽診断書作成罪や公文書偽造罪に当たります。あなたたちならご存じですよね」
目に入ったのは、耕一さんの頬を伝う涙。
それが悲しくて、悔しくて、苦しくて。
その感情を振り払うように、私は声を張り上げる。
「法執行機関が自ら法を破っておいて!何が正義だ!!結局あなたたちは自らの妄信する『正義』に酔い、勝手な自己陶酔で人の命を奪った極悪人に過ぎない!!」
「時間です」
青鬼が、冷静に告げた。
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月乃派(プロフ) - そらえびさん» ありがとうございます!!!そらえびさんは神か??? (3月24日 20時) (レス) @page31 id: 67461f2801 (このIDを非表示/違反報告)
そらえび(プロフ) - 月乃派さん» リクエストありがとうございます!設定上全編通しては難しいのですが、少しだけ書きます! (3月24日 16時) (レス) id: 034df459ee (このIDを非表示/違反報告)
月乃派(プロフ) - あのー、できれば新航空占拠もやって欲しいです。時間めっちゃかかってもいいのでもし、よければ何卒お願いします🙇 (3月16日 23時) (レス) @page30 id: 67461f2801 (このIDを非表示/違反報告)
そらえび(プロフ) - minbutahuikbさん» ありがとうございます! (1月17日 15時) (レス) @page30 id: bea40306cd (このIDを非表示/違反報告)
minbutahuikb(プロフ) - 凄くおもしろかったです (1月16日 8時) (レス) @page30 id: 5e3e8dde78 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そらえび | 作成日時:2023年12月4日 22時