第六十六話 ページ23
「出頭する約束よ」
「制限時間までまだ時間はあります」
と、耕一さんは手錠を取り出して私に渡す。
「Aさん、お願いします」
「失礼します」
私は和泉管理官の右手に手錠をかけた。
銃を向けられたままの二人は、抵抗することもできない。
「管理官、こちらへ」
手錠を引っ張り、近くのテーブルまで寄る。
手錠のもう片方を、テーブルの脚にかけた。
彼女は当然、その場にしゃがみ込むことしかできない。
私はそのまま、管理官の背後に立ち、銃を彼女に向ける。
青鬼はPCを操作して、配信画面を切り替えた。
「皆さんの答えはもう決まったようです。あなたなら、どちらを選びますか?」
そこには、相も変わらず「愛する人」が優勢のアンケート結果が表示されていた。
「和泉管理官、答えてください。『愛する人』と『一億二千万人』、どちらを救いますか?」
「選べない」
「いいえ。既に選んでるはずです。三年前にね」
人質たちが目を見張る。
それは武蔵刑事も同じだった。
「三年前?」
「和泉……どういう意味だ?」
答えたのは耕一さんだった。
「三年前、プレミアム・パナケイア号で新型ステルウイルスが発生しました。この船で要人に会う予定だった長門知事の警護を、県警が担当することになっていました。丹波管理官が乗船するはずでしたが、直前で彼の息子が急病を患ったことにより代理が立てられることになった。和泉管理官の夫、和泉義行さんです」
耕一さんは言葉を切り、画面の向こうに問いかける。
「丹波管理官!その後、彼がどうなったのか、ご存じですよね?」
『船内で、新型ステルウイルスに感染して亡くなった』
低い声が、PCから聞こえた。
丹波管理官のものと見て間違いないだろう。
「和泉管理官はこの事をきっかけに、知事にある進言をしました。『日本のワクチン開発を早急に推し進めるべきだ。あの船に乗っていた当事者として、国家を上げて動き出す責任がある』と。その強い気持ちに動かされた知事は、備前本部長とP2計画を立ち上げた」
スコープ越しに彼女を見つめる耕一さんの目は、憎しみに満ちていた。
「つまり、和泉管理官こそが全ての始まりだったんです」
「本当なのか?」
武蔵刑事が震える声で訊ねる。
「夫は……あのウイルスの、日本で初めての感染者だった。彼は、警察官として自らの職務を全うした。なのに……世間はまるで犯罪者のように扱って……だから私は……」
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月乃派(プロフ) - そらえびさん» ありがとうございます!!!そらえびさんは神か??? (3月24日 20時) (レス) @page31 id: 67461f2801 (このIDを非表示/違反報告)
そらえび(プロフ) - 月乃派さん» リクエストありがとうございます!設定上全編通しては難しいのですが、少しだけ書きます! (3月24日 16時) (レス) id: 034df459ee (このIDを非表示/違反報告)
月乃派(プロフ) - あのー、できれば新航空占拠もやって欲しいです。時間めっちゃかかってもいいのでもし、よければ何卒お願いします🙇 (3月16日 23時) (レス) @page30 id: 67461f2801 (このIDを非表示/違反報告)
そらえび(プロフ) - minbutahuikbさん» ありがとうございます! (1月17日 15時) (レス) @page30 id: bea40306cd (このIDを非表示/違反報告)
minbutahuikb(プロフ) - 凄くおもしろかったです (1月16日 8時) (レス) @page30 id: 5e3e8dde78 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そらえび | 作成日時:2023年12月4日 22時