第六十五話 ページ22
『A……っ!』
「これが、我々からの最後の言葉です」
私の背後で、耕一さんが穏やかに言う。
プツンと、配信が途切れた。
「本当は用意していたものもあったのですが、必要なくなりましたね」
耕一さんは目線だけPCモニターに向ける。
そこには、「愛する人」が「一億二千万人」を上回るアンケート結果が表示されていた。
「今の知事なら、どっちに入れるんでしょうね」
「……さぁ。母は、変わらない気がします」
しんみりと、静かな空気を破ったのは、青鬼の無線だった。
上に上がった鬼たちの、断末魔が聞こえてくる。
「皆が……」
「……覚悟の上です。我々は、時を待ちましょう」
こちらの意図せず配信が再開されたのは、それから少ししてからだった。
「三郎!」
『裕子!』
おそらくは県警側が何か仕組んだのだろう。
さっき無線から流れてきた声の中には、孝さんのものもあった。
配信の操作機器も、とっくに向こうの手の内だろう。
きっと耕一さんはこのことも読んでいて、だからこそ配信が終わってもここを動かなかったようだ。
『大和。仲間は全員捕まった。これ以上の抵抗は無駄だ。諦めて出てくるんだ』
「全員ではありませんよ。ここにいるAさんは、今や我々の立派な仲間です。ですが、そうですね……地下四階に呼んでほしい方がいます。その方もが来たら、出頭します」
『誰だ?』
「和泉管理官です」
『?!……どうして和泉を?』
「では、お待ちしております」
耕一さんはは彼の質問に答えることなく、配信を切った。
「これを」
ピストルを一丁渡される。
耕一さんはもう一丁のピストルに弾を込め始めた。
「出頭するつもりなんてないんでしょ?」
「これ以上何をする気?」
人質二人が声を上げる。
耕一さんがその質問に答えることはなかった。
耕一さんの指示のもと、私は物陰に身をひそめる。
チュイン、という甲高い、弾を外した音。
それを合図に、私も彼らの前に出た。
目の前には武蔵刑事と和泉管理官。
そして、SIS隊員の格好をした耕一さんが銃を構えて立っている。
「今すぐにです」
二対二、そして背後に人質もいることを考慮したのか、二人はあっさりと銃を手放した。
自分の足元に転がる銃を蹴り飛ばすと、メットと覆面マスクを外し、耕一さんは武蔵刑事と初めての対面を果たす。
「お待ちしておりました、武蔵刑事……!」
「大和耕一……!」
銃は彼らに向けたまま。耕一さんはにやりと笑った。
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月乃派(プロフ) - そらえびさん» ありがとうございます!!!そらえびさんは神か??? (3月24日 20時) (レス) @page31 id: 67461f2801 (このIDを非表示/違反報告)
そらえび(プロフ) - 月乃派さん» リクエストありがとうございます!設定上全編通しては難しいのですが、少しだけ書きます! (3月24日 16時) (レス) id: 034df459ee (このIDを非表示/違反報告)
月乃派(プロフ) - あのー、できれば新航空占拠もやって欲しいです。時間めっちゃかかってもいいのでもし、よければ何卒お願いします🙇 (3月16日 23時) (レス) @page30 id: 67461f2801 (このIDを非表示/違反報告)
そらえび(プロフ) - minbutahuikbさん» ありがとうございます! (1月17日 15時) (レス) @page30 id: bea40306cd (このIDを非表示/違反報告)
minbutahuikb(プロフ) - 凄くおもしろかったです (1月16日 8時) (レス) @page30 id: 5e3e8dde78 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そらえび | 作成日時:2023年12月4日 22時