第六十四話 ページ21
配信には手前に因幡と武蔵先生の二人が座り、奥には耕一さんと私が立つという構図が映っている。
「視聴者の皆さん。これはただのアンケートではありません。我々の正義と知事の正義、どちらが正しいのかあなたたちに判断していただきたい」
アンケート結果はほぼ拮抗、やや愛する人が優勢という形になっている。
だがタイミングによっては「一億二千万人」が「愛する人」を上回ることもあり、タイムリミットまでにどうなるのか、全く読めなかった。
「知事。何か言いたいことはありますか？」
画面が切り替わり、病院の外を背景に知事が映る。
『私には次の世代を、国民の責務があります。私が救おうとした一億二千万人も皆、誰かの愛する人なんです。どうか、正しい判断をしてください』
「それは、Aさんの命よりも、重いものなんですね？」
耕一さんが訊ねた。
知事はかぶりを振る。
『あなたは、何か誤解をしているわ。一億二千万人の中には、ちゃんとAの命も含まれている。誰かの愛する人も、自分の愛する人も、私は救いたい。……A、あなたならわかってくれるでしょう？私はずっとあなたのことを愛しているわ』
「……わかってるよ。別に、私がお母さんから愛されてないなんて、思ってない」
耕一さんが驚いたようにこちらを見るのが分かった。
私はゆっくりと、設置されたカメラに近づく。
「お母さんが政治家の道を選んだのは、私の暮らす社会をより良くするため。私を使ってでも選挙に勝とうとしたのは、私を養うお金を得るため。私を厳しくしつけたのは、私の将来をよりより良くするため。全部、全部わかってるよ。最初から」
『そう、そうよA。だったら……』
「でも私は、私だけを愛してほしかった」
『え……』
知事の顔から、色が消えた。
「お母さん、授業参観にも学校行事にも来たことないよね。お母さんと一緒にご飯を食べた記憶だってほとんどないし、うちにある私の写真は学校の卒業アルバムかお母さんに連れられて行った社交パーティでの集合写真だけ……私、ずっと寂しかったよ」
『……寂しい思いをさせたことは謝るわ。私も、ずっと寂しかった。でもあなたのために頑張って働いたのよ？あなたに苦労させないように……』
「私を犠牲にするのが、私の命を、見ず知らずの人と十把一絡げにするのが、お母さんの愛なの？」
頬を生暖かい何かが伝う。
私、ようやく泣けたんだ。
「だったら私は、お母さんの愛する人になんてなりたくなかった」
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月乃派(プロフ) - そらえびさん» ありがとうございます！！！そらえびさんは神か？？？ (3月24日 20時) (
レス) @page31 id: 67461f2801 (このIDを非表示/違反報告)
そらえび(プロフ) - 月乃派さん» リクエストありがとうございます！設定上全編通しては難しいのですが、少しだけ書きます！ (3月24日 16時) (レス) id: 034df459ee (このIDを非表示/違反報告)
月乃派(プロフ) - あのー、できれば新航空占拠もやって欲しいです。時間めっちゃかかってもいいのでもし、よければ何卒お願いします🙇 (3月16日 23時) (レス) @page30 id: 67461f2801 (このIDを非表示/違反報告)
そらえび(プロフ) - minbutahuikbさん» ありがとうございます！ (1月17日 15時) (レス) @page30 id: bea40306cd (このIDを非表示/違反報告)
minbutahuikb(プロフ) - 凄くおもしろかったです (1月16日 8時) (レス) @page30 id: 5e3e8dde78 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：そらえび | 作成日時：2023年12月4日 22時
