第六十三話 ページ20
彼女が岩代を攻撃した理由は、おそらく父親が原因なのだろう。
やはり本人が気づいていないだけで、それを押し込めてしまっているだけで、彼女にも心の機敏はあるのだ。
いっそ自分が温かく彼女を受け入れたら、何か変わるのだろうか。
浮かんだそんな考えを、耕一は振り払う。
変えてはいけないし、きっと変わらない。
自分は鬼だ。
人ではなく鬼だ。
鬼としての道を歩まなくてはならない。
しかし。
琴音にどこか似ている彼女に、もう少し早く出会えていたら。
彼女も、耕一も、違う道を歩めていたかもしれないと思うことはやめられなかった。
佐渡の罪を暴いた彼女が、どうなるのか。
常陸の予想は聞いていたし、彼女を傷つける覚悟もしていたはずだ。
だが。
もし耕一が銃に弾を一つでも補充していたら、Aは既にこの世にいなかった。
まだ目を覚まさない彼女の眠る病室の前から、耕一は動けなかった。
その顔面は蒼白で、唇から漏れ出る息も荒い。
未だに、銃を持っていた方の手が震えている。
彼女を失うのが怖い。
彼女がいなくなることは、再び琴音を失うことと同義だ。
失わないためにも、人質として彼女を解放する方が良いのかもしれない。
そんな考えが耕一の頭をよぎる。
でも、彼女は既に鬼の素顔や常陸が生きていることを知っている。
そういった意味でも、そして耕一個人の感情としても、Aは手元に置いておきたかった。
だから、Aが鬼側を選んだ時、心底安心した。
地下四階についての最大のヒントをくれたのもA。
自身と計画を秤にかけ、計画を選ばせたのもA。
抱きしめたときの感触と、シャンプーの匂いで耕一の胸を高鳴らせたのもA。
耕一の仲間を救い、死にかけたのもA。
いつの間にか鬼たちの心に入り込み、仲間割れを起こしかけた原因もA。
大和耕一の心が動くとき、そこにはいつも長門Aがいた。
自分は、自分たちは鬼だと言い聞かせながら、とっくにそうではなくなっていたことに、気づかざるを得ない。
「あなたはわたしの、愛する人です」
☆
顔に、急速に熱が集まる。
今の話から、耕一さんが私に抱く感情は、琴音さんに抱く感情を「転移」させたものだという予想はついている。
だからといって、耕一さんからの「愛する人」という言葉に対して喜ばずにいられるわけがない。
こんなことなら自分の感情なんてわからないままの方が良かったかもしれない。
「配信を、始めましょうか」
耕一さんはほほ笑んだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 682人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
月乃派(プロフ) - そらえびさん» ありがとうございます！！！そらえびさんは神か？？？ (3月24日 20時) (
レス) @page31 id: 67461f2801 (このIDを非表示/違反報告)
そらえび(プロフ) - 月乃派さん» リクエストありがとうございます！設定上全編通しては難しいのですが、少しだけ書きます！ (3月24日 16時) (レス) id: 034df459ee (このIDを非表示/違反報告)
月乃派(プロフ) - あのー、できれば新航空占拠もやって欲しいです。時間めっちゃかかってもいいのでもし、よければ何卒お願いします🙇 (3月16日 23時) (レス) @page30 id: 67461f2801 (このIDを非表示/違反報告)
そらえび(プロフ) - minbutahuikbさん» ありがとうございます！ (1月17日 15時) (レス) @page30 id: bea40306cd (このIDを非表示/違反報告)
minbutahuikb(プロフ) - 凄くおもしろかったです (1月16日 8時) (レス) @page30 id: 5e3e8dde78 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：そらえび | 作成日時：2023年12月4日 22時
