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第六十二話 ページ19

三歳で父親が他界――それも殺人で。
その後母親である長門道江の厳しい躾を受ける生活が始まり、失感情症を発症。
しかし、その「躾」が実を結び、本人も周囲も気づかぬまま高二のバレンタインを迎える。
その日起きた事件がきっかけで不登校になり、現在は通院の他に外出をすることはない。

「随分と大変な人生だったようですねぇ」

無感情に耕一は言う。
知事の娘でさえなければ、彼女も鬼になっていたかもしれない。
ふと、そう思った。

耕一と琴音、そしてみさきと孝は、生まれの親を知らない。
施設育ちの耕一と琴音にとって、親と呼べるのは施設から彼らを引き取った養父だけだった。
養父に引き取られるまでの暮らしはまあ酷いもので、琴音がたくさんの我慢をしていたことに耕一は気づいていた。



琴音が、死んだまま我慢をし続けているみたいだ。

初めてAを、知事の娘ではなくA本人として見たとき、耕一は率直にそう思った。
生気のない瞳に、整いつつも感情を一切見せない顔立ち。
辛いことがあっても無理して笑顔を見せていた琴音に対して一切何もしてやれていなかったら。
琴音もこうなっていたのではないか。
一度そう思ってしまうと、もうその思考から抜け出せなかった。

「これは、思っていた以上に……」

倒れたAを病室に残し、常陸がホールに向かうのを見送りながら、耕一はつぶやく。

これは、思っていた以上に、彼女を人質として見られなくなりそうだ。



Aの表情は、ほとんど変化しない。
だからこそ、長門知事について語る時に浮かべた笑顔に、耕一は驚いた。
驚くと同時に、怒りもわいてきた。
何が失感情症だ。
何が”躾”だ。
あの笑顔から全部、全部読み取れる。
Aは、母親が自分を商売道具として見ていることに、ずっと“悲しんで”いるじゃないか。



彼女を名前で呼ぶことは、もともと決めていた。
彼女は人質の中でも非常に重要な立ち位置にいる。
こちら側に引き込めれば強力なジョーカーに、そうでなければ鬼たちは重要な情報をつかみ損ねる可能性がある。
だからこそ、名前で呼び、親しみをアピールするはずだったのだ。

「どうした?耕一」
「……なんでもありません」

おそらく武蔵に捕らえられているのであろう、白鬼を迎えに行く途中で、耕一は孝から調子を尋ねられる。
どうやら幼馴染にはばれてしまっているらしい。
名前を呼ぶだけで、こんなにも胸がざわめくとは思っていなかった。

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設定タグ:大病院占拠 , 青鬼 , 大和耕一   
作品ジャンル:恋愛
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月乃派(プロフ) - そらえびさん» ありがとうございます!!!そらえびさんは神か??? (3月24日 20時) (レス) @page31 id: 67461f2801 (このIDを非表示/違反報告)
そらえび(プロフ) - 月乃派さん» リクエストありがとうございます!設定上全編通しては難しいのですが、少しだけ書きます! (3月24日 16時) (レス) id: 034df459ee (このIDを非表示/違反報告)
月乃派(プロフ) - あのー、できれば新航空占拠もやって欲しいです。時間めっちゃかかってもいいのでもし、よければ何卒お願いします🙇 (3月16日 23時) (レス) @page30 id: 67461f2801 (このIDを非表示/違反報告)
そらえび(プロフ) - minbutahuikbさん» ありがとうございます! (1月17日 15時) (レス) @page30 id: bea40306cd (このIDを非表示/違反報告)
minbutahuikb(プロフ) - 凄くおもしろかったです (1月16日 8時) (レス) @page30 id: 5e3e8dde78 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:そらえび | 作成日時:2023年12月4日 22時

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