第六十一話 ページ18
「状況は?」
「地下一階のボイラー室に侵入された」
「ここまで来るのも時間の問題だな」
耕一さん、みさきさん、孝さんが状況報告をしあう。
鬼たちが全員集まり、地下四階に用意した新たな拠点でモニターを見ていた。
「皆さん。これが最後の戦いになります。あなたたちと出会えて、本当に良かった」
そう言うと、耕一さんはほほ笑んだ。
「地獄でまたお会いしましょう」
「行くぞぉ!!」
孝さんの掛け声で喝を入れた鬼たちを見送る。
「Aさん、ついてきていただけますか?」
「はい」
耕一さんを追って、私も拠点を後にした。
「妹の、山城琴音です」
「……はい」
向かったのは、琴音さんが冷凍されていた場所。
唇は紫に変色し、鼻の奥をツンと刺激する冷気の中にほんの少し腐臭が混じっていた。
耕一さんの瞳から、一粒の涙が落ちる。
私はなんだか、見てはいけないものを見たような気がして、視線を下に落とす。
耕一さんのきれいな指が、琴音さんの頬に触れた。
「初めてあなたと会ったとき、琴音に似てると感じたんです」
「私が……琴音さんに?」
「ええ。容姿や声ではなく、あなたの持つ雰囲気が」
そう言って、耕一さんは私にたくさんのことを教えてくれた。
琴音さんのこと、お父さんのこと、病院を占拠するに至るまでの経緯、そして――。
私のことを、どう思っているのかについても。
☆
「知事の娘が?」
「はい。その日、診察に来るようで……」
病院占拠日の二週間前。
常陸が、Aの資料を耕一に手渡す。
そこに添付された顔写真は、病院の診察券を作る際に撮られたものだ。
顔立ちは整っているものの、生気のない目でこちらを見つめる少女。
耕一は”使える”と判断した。
「なるほど。では、彼女も人質に加えましょう」
「えっ、いや、私が言いたいのはそうではなく……その資料にも書いてありますが、彼女は心に大きな傷を抱えています。できれば、彼女に悪影響は与えたくありません」
「……それは、鬼としての考えですか」
「……」
常陸は黙ったままうつむく。
「人としての考えであれば捨ててください。我々は鬼なんですから」
反論しようと口を開く常陸に対し、耕一は言葉を続ける。
「彼女がいた方が我々の手数が増えることは明白です。あなたもわかっていますよね?」
「……ええ」
諦めたようにうなずく常陸を横目に、耕一は常陸から渡されたAの資料をめくる。
そこに綴られた彼女の過去は、なかなかに酷いものだった。
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月乃派(プロフ) - そらえびさん» ありがとうございます!!!そらえびさんは神か??? (3月24日 20時) (レス) @page31 id: 67461f2801 (このIDを非表示/違反報告)
そらえび(プロフ) - 月乃派さん» リクエストありがとうございます!設定上全編通しては難しいのですが、少しだけ書きます! (3月24日 16時) (レス) id: 034df459ee (このIDを非表示/違反報告)
月乃派(プロフ) - あのー、できれば新航空占拠もやって欲しいです。時間めっちゃかかってもいいのでもし、よければ何卒お願いします🙇 (3月16日 23時) (レス) @page30 id: 67461f2801 (このIDを非表示/違反報告)
そらえび(プロフ) - minbutahuikbさん» ありがとうございます! (1月17日 15時) (レス) @page30 id: bea40306cd (このIDを非表示/違反報告)
minbutahuikb(プロフ) - 凄くおもしろかったです (1月16日 8時) (レス) @page30 id: 5e3e8dde78 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そらえび | 作成日時:2023年12月4日 22時