第六十話 ページ17
「そうですか……武蔵刑事が中に……。それは手間が省けました」
先ほどと同じ、別室にいる武蔵先生は明らかに動揺する。
「三郎……」
私はというと、青鬼の――耕一さんの傍にいることを許された。
配信で解放を拒否した、仲間になったのだから、ということらしい。
無線越しに、他の鬼たちからの報告が飛び交う。
どんな手段を使ったのか、院内に侵入した武蔵が孝さんのタブレットを奪い、奔走しているらしい。
先ほどの配信がスマホからだったのは、既に院内に侵入していたからだろう。
「しおりさん。知事を解放してください」
耕一さんがそう言ったのは、人質二人が逃げたという孝さんからの通信が入った直後だった。
細工をし、安芸さんたちを行かせると、青鬼は配信を始める。
「皆さん。約束通り知事を解放しました。ただし……知事にはお土産をお渡しました」
そう言って、青鬼は知事にハイドラ・ウイルスを投与したことを語った。
ざわめく県警。
それが落ち着くのを待つと、青鬼は彼らに問うた。
「これからあなたたちに正義を問いたいと思います」
そう言うと、青鬼は自分の首筋に注射針を刺す。
それが何を意味するのか、分からない話ではなかった。
そして青鬼は、カメラの前で鬼の面を外す。
「問題です。目の前で、あなたの愛する人が死にかけています。ですが、あなたの愛する人が死ねば日本国民、一億二千万人が助かります。あなたならどちらを選びますか?」
その声色は、泣きたくなるくらい優しくて、穏やかで。
「愛する人か、一億二千万人の命か。愛する人が多ければ私の勝ち。一億二千万人の方が多ければ、知事の勝ち。勝った方の命が助かります」
そう言って、カメラに見せつけたのは黄色い液体。
これが抗ウイルス薬だということなのだろう。
「制限時間は一時間。では、ごきげんよう」
配信が途切れると、武蔵先生は咎めた。
「あなた……狂ってる!」
「狂っているのはどちらでしょうか。武蔵先生は、娘さんの命と一億二千万人なら、一億二千万人を選ぶのですか?」
「それは……っ」
武蔵先生は言いよどむ。
「それに……」
青鬼は、PCの画面をこちらに向けた。
そこには「愛する人」か「一億二千万人」かのリアルタイム集計画面が表示されている。
現状、「愛する人」がやや優勢だった。
「皆さんの中の鬼が、動き出したようです」
画面を見る耕一さんは、笑っていた。
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月乃派(プロフ) - そらえびさん» ありがとうございます!!!そらえびさんは神か??? (3月24日 20時) (レス) @page31 id: 67461f2801 (このIDを非表示/違反報告)
そらえび(プロフ) - 月乃派さん» リクエストありがとうございます!設定上全編通しては難しいのですが、少しだけ書きます! (3月24日 16時) (レス) id: 034df459ee (このIDを非表示/違反報告)
月乃派(プロフ) - あのー、できれば新航空占拠もやって欲しいです。時間めっちゃかかってもいいのでもし、よければ何卒お願いします🙇 (3月16日 23時) (レス) @page30 id: 67461f2801 (このIDを非表示/違反報告)
そらえび(プロフ) - minbutahuikbさん» ありがとうございます! (1月17日 15時) (レス) @page30 id: bea40306cd (このIDを非表示/違反報告)
minbutahuikb(プロフ) - 凄くおもしろかったです (1月16日 8時) (レス) @page30 id: 5e3e8dde78 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そらえび | 作成日時:2023年12月4日 22時